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素直になれないクリスマス⑤
「本当に信じられない。あんなにポーッとした顔で元カレに付いていくなんて、あなた頭悪いんじゃないですか?」
「なぁ日下部、点滴の指示は?」
「そんなの、あなたを瀧澤先生から離す嘘に決まってんでしょ?大体ね、あのままどっかに連れてかれてエロいことされるのが、目に見えてるじゃないですか? それともそうされたかったんですか?」
「そ、そんわけないだろう!?」
「だから、あなたは考えが甘いんです‼」
俺が日下部に連れて来られたのは病棟ではなく、いつも2人でグダグダと時間を過ごしていた非常階段だった。
冬の昼間は本当に短い……15時を過ぎたばかりなのに、もう辺りは薄暗くなってきている。
日下部はイライラしているらしく、頭は乱暴に掻き毟った。スクラブからチョコレートの箱を取り出し、口に放り込む。そんな何気ない仕草が……悔しい程かっこいい。
無理……苦しい……。
俺は俯いて唇を尖らす。
そんな子供みたいに不貞腐れる俺の頭を、日下部は優しく優しく撫でてくれた。
「月居先生もチョコ食べますか? ほら、あーん?」
「え? あーんって……」
箱からチョコレートを一つ取り出し、俺に差し出してくる。
「え? じゃなくて、食べな? あーん、してごらんよ?」
「で、でも!?」
「いいから、ほら早くして」
「あ、あ、うん。あ、あーん……」
日下部の勢いに押され渋々口を開いた。だって、これじゃあ子供みたいだ。
それでも仕方なくカリカリッとチョコレートを咀嚼し、飲み込めば日下部が顔を覗き込んできた。
「美味しい?」
「う、旨いよ」
「良かった。もう一つ食べますか? ほら」
「え? ちょ、ちょっと……」
「ひゃくして(早くして)。ひょら(ほら)」
日下部がチョコレートを口に咥えて唇を尖らせる。
このチョコレートを食えって言うのかよ……。
俺の顔は熱を帯び、トマトみたいに真っ赤になってしまった。それでも日下部が咥えているチョコレートは凄く美味しそうで……食べてみたい騒動に駆られる。
きっと、あのチョコレートは甘いだろうなぁ。今まで食べてきたどんなチョコレートより。
そっと瞳を閉じて日下部の咥えているチョコレートに噛み付く。
その瞬間フニッっと唇と唇が触れ合う。心臓がトクンと一つ跳ねた。
「……フッ……はぁ……」
唇が深く重なり合えばチョコレートが溶けて、甘い味が口内に広がっていく。
口の中でチョコレートを取り合うように舌を絡め合って、甘い甘い唾液をコクンと飲み込んだ。
「めっちゃ旨かったでしょ?」
「馬鹿野郎……」
背一杯の悪口が、冷たい北風に攫われていく。
火照った頬に、そんな風が心地よかった。
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