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第16話『三日目』

泉サキの魂が入れ替わってから三日目。 窓から入る陽射しを浴びながら、レイはソファーに座り、サキはラグマットに座り込んでいた。 この日、サキとレイは同居ルールの取り決めをしていた。サキは居候でいる気はなかった。 肉体年齢は同じでも、『泉サキ』の中身はである自分は一人暮らしをして自活していたのだ。学生であるレイに食わせてもらうわけにはいかない。社会人としてのプライドだった。 正直なことをいえば、引越し資金は十分なほどにあった。 泉サキは、しこたま貯め込んでいた。携帯の財布口座を見たとき、目が飛び出そうになった。自分が社会人として働いていたときの年収の二倍以上はあった。 (あんなバイトしてりゃ、稼ぎはいいだろ) いつでも出て行けるが、来月から大学にも行かなければならない。多少の不安があった。 レイには悪いが、大学生活が軌道に乗るまで世話になろうと思っている。 同居するにあたり、以前の生活ルールを含め、ひとつずつ確認していった。 まず、家賃や光熱費。これについては、レイはいらないと言った。 「親のマンションなんだ。仕送りがわりに、光熱費も親が払ってくれてるから」 賃貸用の一室で、学生のうちは使わせてくれているのだという。 「じゃ、食費とかは? 冷蔵庫にあるものとか」 「ほとんどおれが買ってる。でもサキは外食ばっかで、自分で作ったりしないから。たまに食べられる分には、気にしてなかった」 恋人だったからか、その辺りは大らかにやっていたようだ。サキは考えるまでもなく、 「食費は払うよ。これからは家で食べることの方が多くなると思う」 と言うと、レイはわかった、とうなずいた。サキは続けた。 「家事はおれがやるよ」 「それはいいよ。そういうのは別々にやってたし。全部やってもらうわけには」 レイは遠慮したが、サキは首を振った。 「それくらいはやらせてほしい。家賃、光熱費タダで置いてもらえるだけで、ありがたすぎるから」 サキが引き下がらないでいると、レイは妥協した。 「じゃあ、サキのバイトが決まるまで。サキも忙しくなったら、交代でやろう」 そのとき、サキの携帯がピピッと鳴った。アプリの通知音だ。ローテーブルに置いていた携帯を見ると、レイは「コーヒー淹れる」と言って、キッチンに立った。 サキは携帯の通知を見て、首を傾げた。画面には『ヒート予定日』と表示されていた。

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