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第34話『違和感』
その日もソファーでゴロゴロしていたときで、レイがアイスを食べながらやってきた。
夏の午後の強い陽射しは、冷房の効いた部屋でも暑く感じる。サキは起き上がり、ソファーを半分譲った。レイは腰を下ろすと言った。
「サキ、八月三日と四日って空いてる?」
「ん? なんで?」
「バイト先のみんな、海に行こうって話になって。サキも一緒に行かない?」
「それって、おれが行ってもいいもんなの?」
仲間内に部外者が入ることに、サキはためらった。
だが、サキの心配はよそに、レイは「大丈夫」と言った。
「バイト仲間は三人なんだけど、それぞれ友だちを連れて来るから」
ふむ、とサキは思った。サキはこの世界でレイ以外に友人がいない。レイと共通の知り合いができるのもいいかもしれない。
「いいよ。空いてるから」
「よかった。じゃ、水着用意しといてね」
レイは、楽しみだな、とつぶやきながらアイスを頬張っていた。
店内のBGMの曲調が変わった。
涼し気な目元のヒロムを前に、サキは、すみません、と両手を合わせた。
「なんだ、残念」
ヒロムはさして残念そうでもなく、アイスティーを飲んだ。ストローを回しながら尋ねてきた。
「どこの海に行くの?」
「由井浜ってとこです」
サキはよく知らなかったが、海水浴場として有名な場所らしい。ヒロムも知っていた。
「ぼくも行ったことあるよ。リゾートホテル月下があるとこだね」
「あ、そのホテルに泊まるんですよ」
「そうなんだ。あそこはいいとこだよ。何泊するの?」
「一泊二日です」
「八月四日と五日?」
「いえ、三日と四日」
サキが答えると、ヒロムは一瞬、目線を下に落とした。
「四日に帰って来てから、ぼくたちに参加とかは無理だよね」
サキは苦笑した。
「さすがに無理です」
「だよね。その旅行、霧島くんも一緒?」
ヒロムはさらりと言った。サキは小さく驚いた。
(レイのこと、知ってるのか)
サキはストローを口にした。
ヒロムは二人の関係をどこまで知っているのだろうか。恋人だと元の魂が言った可能性はある。しかし、それならサキに付き合っている人がいるかなど訊かないだろう。もし恋人だと知っていたら、友人と行くと言っているのに、レイの名を出すはずがない。
サキは奇妙な違和感を覚え、慎重に答えた。
「一緒ですけど、なぜですか?」
「いや。仲いいのは知ってたから、一緒かなって思っただけだよ」
ヒロムは笑い、伝票を持って立ち上がった。
「これから出勤なんだ。あわただしくて、ごめんね。また何かあったら誘うよ」
レジに向かおうとするヒロムに、サキは慌てて声をかけた。
「あ、おれの分……」
「ここはいいよ。時間取らせちゃったし。サキくんはまだ学生でしょ。お兄さんがおごってあげる」
口元に笑みを浮かべ、見下ろしてきたヒロムは大人の余裕を見せた。颯爽と会計を済ませ、店を出て行った。
サキは呆気にとられつつ、アイスコーヒーを啜った。なぜか釈然としない気分だった。
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