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第59話『サキの罪悪感』
店内にはBGMが流れているというのに、静まり返ったようだった。
サキは冷水を浴びせられたかのように固まっていた。立石は携帯を持ち上げた。先ほど来ていた通知を見ているのだろう。目を通すとテーブルに置いた。
「どういうつもりでレイと暮らしてんのかわかんないけど。これ以上、レイに関わらないでくれないか」
サキは目だけを立石に向けた。
「記憶喪失だかなんだか知んねえけど、おまえは気楽でいいよな。忘れてんだから」
立石の視線が刺さる。
「でもレイは違うんだからな。そこんとこ、わかっとけよ」
立石はそう言って、コーヒーに口をつけた。
サキは染められた金髪を見ながら両手の拳を握った。胸が罪悪感で痛む。
そのとき、カラン、と扉の鈴が鳴った。と、同時に狭い店内に声が響いた。
「ハルキ!」
サキは雷に打たれたように顔を上げた。入口を見ると、慌てた顔をしたレイと目が合った。
レイは大股で歩いてやって来ると、冷たい外気をまとったまま立石を見下ろした。
「ハルキ、なにやってんの」
立石は座ったまま、レイを見上げた。
「久しぶりに会ったのに、なに怒ってんだよ」
「サキに余計なこと言わないでって、チャットしたでしょ」
「余計なことなんて言ってねえよ」
「じゃあ、なんでサキがつらそうな顔してんの」
サキはハッとした。顔に出ていたことに、しまったと思った。
レイは睨むように立石を見ている。立石はテーブルをトントンと指で小突いた。
「座れば」
立石が言うと、レイは彼の横の椅子をひいた。マスターが水とメニューを持ってきた。
レイは注文をせずに、立石に体を向けた。
「なんの話をしたの」
問い詰めるような口調のレイに、立石は頬杖をついて、曇りガラスを見た。
答えるつもりはないらしいことがわかると、レイはサキに向き直った。
「サキ?」
サキはテーブルに目を落とした。考える素振りを見せてから口を開いた。
「レイが、昔は小さくてかわいかったって話」
「は⁉」
レイが間抜けた声を出した。立石が、ふっと鼻から息を出して笑った。
「おれさ、レイに話しがあるんだ」
立石がこちらを見たので、サキは伝票を持って立ち上がった。
「おれは帰るよ。スーパーに行く途中だったんだ」
二人がサキを見上げた。
「立石さん。どうもありがとう」
レイが何か言いたげな顔をしたが、サキは構わずにレジに向かった。マスターが会計をしようとしたところで、小声で言った。
「いま来た人にコーヒーを出してもらえますか。お会計は一緒で」
たぶん長くなるだろう。マスターは、かしこまりました、と微笑を浮かべた。
店を出ると辺りは薄暗くなっていた。初冬の風に身を縮こまらせながら、サキは駅前に向かって歩いていった。
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