77 / 79

第77話『相思』

見つめてくる真剣な眼差しに、サキは大きく息をした。それからゆっくりと瞬きをし、口を開いた。 「おれは……レイのそばにいちゃダメなんだ」   レイは口を開きかけたが、サキは手で制止した。 「おれがやらかしたことでなくても、レイにとっては泉サキがやったことだ。だから、レイを泉サキから解放させなきゃって」   でも、と続ける。 「そう思ってたのに、ダメだった。おれも……レイのことが好きだから」   笑おうとしたのに、目尻に涙が浮かんだ。 「ここを出て、離れようとしたのに」   そこまで言いかけたとき、レイが、おれは、と遮った。 「あなたが出て行って、つらかった。おれのことをなんとも思ってないんだって」   滲む視界の中、レイも瞳を揺らした。 「どうすれば振り向いてもらえるか、そればかり考えていたんだ」   サキは胸が震えた。 「ハルから送られてきた動画を見て、心臓が止まるかと思った」   レイの腕が伸び、サキは頭を抱えるように抱き締められた。 レイの匂いがする。温かな体温に包まれ、サキは目を閉じた。 「無事でよかった」   掠れた声に、サキの頬に一筋の涙が伝った。 「レイ。助けてくれてありがとう」   万感の想いを込めて囁くと、レイは身体を離し、サキの両肩を優しく掴んだ。   細められたレイの瞳を見つめて、サキはそっと瞼を閉じた。   二人の唇が重なる。 サキは元の魂と体を交換した真白い空間のことが脳裏をよぎった。   唇を離すと、レイはまたサキを抱き締めた。 今度は力強く抱きすくめられ、サキもまた両腕を彼の背に回した。 (あったかい……)   サキはレイの胸に顔をうずめ、しばらく目を閉じていた。 彼の心音が心地よかった。 ずっと聞いていたい……と思っていたが、その鼓動がどんどん速くなっていき、サキは目を開けた。 「レイ。心臓の音、すごいんだけど」   サキが顔を上げようとすると、レイのあごに頭が触れた。 「しかたないでしょ。今、我慢してるんだから」 「我慢? なにを?」   サキが尋ねると、レイはため息を吐いた。 「言わせないでよ」   その不貞腐れた言い方に、思わず吹き出した。   サキは、レイ、と呼びかけ、レイが顔を向けたとき、すかさずキスをした。 下唇を軽く噛むと、レイはびくっと肩を揺らした。サキはレイの首筋に口をつけた。 「……ヤろう?」   熱っぽく囁くと、レイは硬直した。 そのまま返事がないので、訝しんで身体を離すと、片手で顔を覆っていた。 「どうした?」   尋ねると、 「いや、あなたから誘われると思わなかったから……」   と、耳まで赤くしている。サキはレイが可愛く見えて、ふふと笑った。 「名前」 「ん?」   レイは顔を隠していた手をどけた。 「サキでいいってば。よそよそしいのは嫌だ。それに、この名前もけっこう気に入ってる」   微笑むと、レイも目元を緩めた。二人の視線が合うと、どちらともなくキスをした。   自動管理されている部屋の温度が上がった気がした。

ともだちにシェアしよう!