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第2話

 そう、変なのは股間がおかしいだけで、身体が動かない。  まさかこれが金縛りってやつだろうか。 「おい」  突如、岩のようなものすごく低く響く声が近くで聞こえた。幻聴だろうか。 「おい……いったん起きたらどうだ」  今度は、明らかに俺に言っているのだとわかった。  眠い目を擦りながらゆっくり瞼を開ける。  するとそこには、筋骨隆々の、体格は二メートルはあろうかというプロレスラーのような長髪男が俺の股間を跨いでいた。 「うわあああ!? ん、むぐぐぐぐ……!?」  あまりに突然のことだったので大声を出しそうになったが、いくら叫びたくても声が出なくなった。 「しっ……貴様、今は深夜だぞ? 特別に魔法で声を出せなくしておいた。俺様の言うことを大人しく聞いて対話をすると約束するのであれば、すぐに解いてやる」  魔法、って……。  ベッド横に飾ってある魔法少女アニメのタペストリーを見やる。  いかにもなステッキを持っていて、ピンクのフレアスカートが似合うツインテールの愛らしい姿。  一ミリたりとも合ってないじゃないか。三次元のバカヤロー! 「で? どうするのだ? 俺様としてはこのまま一生喋れなくても良いが?」 「んっ……ん、んんっ! ふぐっ!」  魔法だかこいつが誰だかなんて今はどうだっていい。夢であれ声が出せないなんて苦しくてたまらない。  俺は必死に相手に従うという意思を込めてこくこく頷いた。  すると、窒息しそうになっていたのが嘘みたいに声が戻った。  普通に呼吸ができて普通に話せることのなんと素晴らしいことか。  そうして、目の前の男に向き直る。 「えっと……いろいろ聞きたいんですけど……」 「そうであろうな」 「あなた……誰なんですか……。へ、変質者……とかじゃないですよね……つ、通報しませんから許してくださいとりあえず俺の股間からどいてください」  そう、俺は下半身を思いっ切り露出している。  それで夜中に男にのしかかられているなんて、完全に泥棒っていうより性目的の輩にしか思えない。 「それは駄目だ」 「ど、どうして」 「俺様がインキュバス……この国の言葉で言う、悪魔の中では夢魔に類する存在だからだ。貴様の精液を根こそぎ啜りに来てやった。しかも人間如きにこうして実体化して。むしろ光栄なことだぞ」  あまりにも非現実的なことを言われ、俺はパニックになるどころか…………何故だかめちゃくちゃ冷静になってしまった。 「インキュバス……はあぁ? エロ漫画かっつーの」  なんとなく知っているのは、夢魔とは夢の中に魅力的な姿で現れては性を搾取する悪魔だということ。  これは女性型、男性型があるらしいが、その点ははっきりわかっていない。  今、俺の目の前にいるものは、想像とは少し……いやだいぶ違った。

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