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重いとか軽いとか①
人を好きになるのに重いとか軽いとか質量で量れるものなのだろうか。
誠心誠意、自分なりにその人のことを心から愛しているだけ。
重さで量るようなものじゃない。なのに自分が出会う人は学生のうちは遊びたいと言って、重たい男は敬遠される。
大学最後の年に結婚を見据えるほど好きだった人がいた。
彼女との将来の為に就活も死に物狂いで面接を受けて、それなりの名の知れた企業に内定をもらうことが出来た。
そんな矢先に、彼女が他の男とホテル街へと消えていったのを見てしまった。
お互いに就活でなかなか会えなくとも、毎日連絡はとっていたし、電話もしていた。
この会えない時間は彼女との未来の為だと信じてきたのに、呆気なく裏切られ、徹史の未来設計は崩壊していった。
それでも自分の何処が悪かったのだと問えば「徹史の愛は重すぎる。もっと気楽に付き合いたかった。結婚だなんて私は考えてない」と返ってきた。今回だけじゃない、徹史が振られる理由は大体この手のことで振られるのが決まりだった。
徹史の愛は私じゃ受け止めきれない……。
「でさ、年下の彼氏がピュアで可愛くてさ」
春を迎え、学生から社会人になって早一ヶ月。大型連休に入った今、未だに癒えない恋を引きずりながら、栗山徹史 は大学時代の友人である千坂昭良 と繁華街の居酒屋で愚痴大会を繰り広げていた。
愚痴大会というよりは千坂の話が八割を占めていて、次第に愚痴は彼自身の恋人との惚気話へとすり替わっていった。
「千坂の恋人って大学生だっけ?」
「そうそう、大学一年生。まだ高校から上がりたてだからピチピチよ。俺年上だろ?だから甘えてくんのよ」
頬を緩めて幸せそうにスマホの待ち受け画面の恋人とのツーショット写真を見せつけてくる。確かに見た目からして実家のポメラニアンを彷彿とさせるような、ふわふわとした青年だった。元ラグビー部でガタイの良い千坂とは美女と野獣ならぬ美男と野獣のような組み合わせではあるが、ラブラブであることは伝わってくる。
「幸せそうでいいなー……。俺も恋人がほしい……」
人の幸せ話を聞いたら羨ましく思うのは良く言う隣の芝は青いってやつだろう。とはいうものの出会いなんて学生の頃に比べたら愕然と減る。職場恋愛は周りの目もあってハードルが高いし、自分は公私を分けて職務をできるほど器用でもない。
でも、気になる人くらい居たら毎日が楽しいんだろうな……。
「お前はまず、その凝り固まった頭をどうにかしろ。大学生の分際で指輪渡すとか馬鹿すぎるだろ」
「だって好きになる人にはいつだって本気だから、それにあの時は社会人になって会えない時間が増えると思ったら結婚してしまった方がもっと一緒にいれるかなー……って思ったんだよ」
容赦ない千坂の詰りにそっぽを向いて唇を尖らせた。
「顔に似合わずおもっ……。お前って束縛激しい奴だったんだな。そりゃー彼女も離れていくだろ。二十代前半なんてさ、遊びたい盛りなんだからもっと気楽に恋愛しろよ」
「そんなこと言っても、俺はいつだって本気で恋愛したい……」
向かいから呆れたような深い溜息が聞こえる。千坂の言う通り、他者への執着心は自覚しているが、直せと言われてそう簡単に直せるものじゃない。好きになるとその人しか見えなくなる。それの何がいけないことなのだろう。
そう思う反面で、今回の失敗は改めなければならないことも頭では理解していた。せめて次に誰かを好きになった時は、必要以上に詮索したり、指輪を送ったり、世間で言う『重たい』と言われる行動は避けようと思っていた。
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