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重いとか軽いとか③

札幌の中心部。夜の街と言われる繁華街。路面電車の通る大きい道路から中道へと入ったところで眩しい電飾の看板が立ち並ぶ、商業ビルの三階に千坂に紹介された店はあった。階段を上っている途中で誰かが怒鳴り合っているような声が聞こえてきて、思わず階下で足を止める。 『お前もいい加減、年なんだから将来考えた付き合いをした方がいいっつってんの。三十間近の売れ残りネコなんてセフレでも抱きたいとは思わねぇよ』 「はぁ?若い男にしか興味ないやつに言われたくねーよ。大きなお世話、お前なんかこっちから願い下げだわ。とっととうせろ」  やはり此処は徹史のような平凡男が来てはいけない場所なのではないだろうか。分不相応な気がする。 今ならまだ引き返せる、そう思ったが、少しの好奇心から階段を一歩ずつ進めていくと、勢いよく駆け降りていく男とすれ違った。 一瞬ではあったが口元が切れていて喧嘩をしていた痕跡を残していた男は先ほどの怒声の主であろう。  徹史は更に足を進めて三階へと辿り着くと、目的のお店の扉横で煙草を燻らせながら物思いにふけた様子の男がいた。 煙草を吸う男性など職場の給湯室で嫌と言う程見ているはずなのに、徹史は不覚にもドキッとした。煙草の吸い口から離された唇がやけに艶っぽい……。  冷めたような眼差しで煙を追う虚ろな切れ長な瞳。右の目頭の下にある黒子が魅力的で触れたくなる。 「何見てんの?」  徹史が思わず見とれていると、男の視線が此方へと移して来て、眉を寄せて怪訝そうな表情で問うてきた。 「いいえ……」  きっと階下で聞いた『うせろ』と怒鳴っていた方で間違いない。徹史は明らかに喧嘩腰の相手に怖気づいて咄嗟に俯くと、逃げるように店の中へと入った。  店内に入ると縦に広い空間作りになっていて、全体的に薄いピンク色の蛍光灯がバーの雰囲気を醸し出していた。 カウンター席の後ろには四人ほど座れるボックス席が三つ。数名ほどではあるが客もいて、一番奥のボックス席では目を伏せたくなる程、男性同士がキスなんかをしてイチャついている光景があった。 「あなた見ない顔よね?」  徹史は店内を見渡した後、出入り口に一番近いカウンター席へと座るとキッチンに立つ店主らしき男に話し掛けられた。

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