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重いとか軽いとか⑤

それでもどうにかしてお近づきになりたかった徹史は、連休中は毎日通い、男に話し掛けるタイミングを伺っていた。  男はほぼ毎日来ていて、連休だというのにスーツで来店しているときもあって唯のサラリーマンではなさそうだった。身に付けているものも上質な時計だし、身なりも常に整っていることから人前に出る仕事のような気がした。店にくるなり一人でゆっくり御酒を嗜んでは、時折店主と喋って帰るのがお決まりだった。最近は仕事のストレスが溜まっているのか、「誰か紹介してよ」と冗談交じりに話していた。  自分にも脈はあるだろうか。それには自ら話し掛けにいかないと始まらない。徹史は店主がカウンターを離れた隙に自分の御酒グラスを持って男に近づくことにした。何度も脳内で自然に話し掛ける練習をした。第一印象が肝心だと分かっているからこそ、失敗はできない。男はぼんやりと一点を眺めながら退屈そうにグラスに口をつけていた。 「あの、ご一緒してもいいですか?」  声を上擦らせながら男の背中に話し掛けると、此方を一瞥してきた。 「ええ、どうぞ」  自らの右隣の座席に置いていた鞄を左の座席に移動させると、空いた座席を目差ししてきた。同席の許可を得たことに安堵するが、これからどうしようか、何度もシュミレーションしていたのに男の顔を見た途端頭が真っ白になった。 「俺、栗山徹史って言います。あなたのお名前を聞いてもいいですか?」 「櫂理人」  気怠げに徹史の方を一切向くことなくそう答えた櫂という男は、どうやら栗山のことは眼中にないのが態度で分かった。 最初からそう上手くはいかないことは、心していたが、ここまで素っ気なく返されてしまうものなのかと少しだけ、気落ちした。 だからといってまだ始まってもいない戦いを諦めるわけにいかない。初対面の人にいきなり心を開くわけなどないのは分かっているし、栗山の中で希望を無くしたわけじゃなかった。 「楷さん……。理人さんって呼んでもいいですか?」  腰を座り直して姿勢を正しては、ダメ元で少しでも距離を詰めようとそう提案してみると、「お好きにどうぞ」とあっさり受け入れてもらえた。  第一段階は突破できたので、可能性は見えてきた。あとは徐々にでも、彼のことを聞き出して仲良くなれれば……と考えていると男がこちらに顔を傾けた。不意に合わさった瞳に、心臓がバクバクと鳴る。

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