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触れられない心①

お勘定は理人さんが持つというので彼の言葉に甘えた後、お店を出た。 大きい通りの繁華街から徒歩十分程の場所にあるホテル街へと向かうのかと思ったが、少し外れた場所まで歩かされる。 徹史は首を傾げつつも緊張と目の前の人をモノにできる歓びで頭がいっぱいだった。同性を相手にするのは初めてだから上手くいくだろうか……。  そんなことを考えながら歩いていると、理人さんが看板のブール―ライトが目に留まる建物の前で立ち止まった。  一見ラブホテルだということを感じさせない程、一般的なホテルのような立派な建物。徹史自身、彼女がいたことがあっても施設を利用して致すことはなかった。 大体は独り暮らしの自分の部屋で、いかにもな外観を想像していただけに驚かされる。  呆気にとられている徹史の一方で理人さんは、先陣を切って中へと入っていくと、建物内に入ってすぐのパネルを眺めて颯爽と部屋を選んでエレベーターに乗り込んでしまった。 見慣れない黒い床にピンクの蛍光灯の内装に右往左往している間に淡々と先を行く彼に戸惑いながらも後に続く。  理人さんが選んだ部屋は落ち着いて寝泊まりが出来そうなほど一般ホテルと変わらない部屋。強いていうならダブルベッドのヘッドボードに何のスイッチかも分からないような数種類のボタンと避妊具が常備されているところだろうか。 「勝手に決めちゃったけど良かった?」  部屋に入るなりソファに革製の手提げ鞄を投げ置くとネクタイの紐を解き始めた。ネクタイと釦が解かれた襟元から彼の首筋が見えて、ゴクリと息を呑む。 「あ、はい。俺、ホテルとか初めてで道理とか分からないので理人さんの好きにしてもらって大丈夫です」 「まじ?大学生のときとか遊んだりしなかったの?」  物珍しそうに目を丸くして驚く。男女大勢でホテルに行って遊んだなどの話は聞いたことはあったが、徹史自身は健全なお付き合いしかしてこなかった。しかし、自分の過去の恋愛遍歴を明かしてしまえば、相手に重いと敬遠されかねないような気がして、「えっと……。家が多かったから……」と曖昧に答える事しかできなかった。 「ふーん、まあ。学生ってお金ないもんな。つか、君いくつ?」 「二十三歳です。理人さんは……」  オウム返しのように彼に年齢を問うと眉間に皺を寄せて怪訝そうな顔をした。聞いてはいけなかっただろうか。理人さんは決まりが悪そうに「三十だけど……」と呟いたことから年齢に関して多少なりとも気にしているようだった。 雰囲気で年上だと感じてはいたが、三十代には見えない。 清潔感もあるし肌艶も良さそうだし……。 この人の一つ一つの所作が色っぽい……。  煙草を咥える上下共に厚みのある唇……。  シャツの襟元のボタンをだらしなく開いたことにより見える肌。今から触れられると思うと全身の血が巡っているかのように身体中が熱くなる。 「まぁいいや、先にシャワー浴びていいよ。俺、時間かかるから」  そんな男を前に欲情していると理人さんはジャケットを脱いでハンガーにかけるとソファに腰を下ろし、煙草を咥えていた。 そんな彼を見てこのまま立ち往生するわけにもいかず、徹史は慌ててその場でお辞儀をすると部屋の右手にあるシャワー室へと逃げ込んだ。

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