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触れられない心⑤

「あと、俺。基本的に仕事で忙しい時期とかあるから、そういう時は俺からするとき以外は時間が作れないときはあるけど」  何だか凄く淡々としていて、本当に付き合っている方向で合っているだろうかと不安になる。今までの恋愛遍歴が当てにならないほどこの人との距離感が難しそうでこの先の雲行きが怪しい。 「だったら……。そういうときは週一くらいでも理人さんに連絡するのはアリですか?」  せめてもの少しでも恋人同士なのだからと思い、妥協案を出してみたが理人さんは煙草の灰を灰皿に落とすと天井を仰いでカッカッ笑い始めた。 「なんで?何のために?そんな恋人みたいなこと、ないない」  冗談で言ったつもりはない。眉を下げて小馬鹿にしたように笑う理人さんにムッとしながらも、彼の言葉に高揚していた心が急降下していく。 「恋人みたいって……。俺たちってそういう関係になったんじゃ……」  身体を重ねたのなら心を重ねたものだと信じて疑わなかった。  「はあ?たった一回ヤッただけで?俺は君とはセフレのつもりでやってきたいと思ってるんだけど、それとも嫌だった?なら無理強いはしないけど。俺さ、恋人とか作らないし、執着もないから、割り切った関係でいてくれると助かるんだけど。なんなら君も適当に遊んでくれていいよ。君もノンケならたまに女も抱きたくなるでしょ?彼女出来たら適当に切ってくれて構わないから」  徹史の方など一切目をくれずに、スマホを眺めながら事務的に話を進めてくる。別に初めて会ったのだから気持ちを推し量ってくれとは言わないが、勝手に不貞を働くような男だと思われるのは、心外だった。 「セフレの方が……俺も助かります。わかりました……」  徹史は腿の上で拳を握ると息を飲み込んで頭を垂れた。好きな人がいながら、そんな不貞なことをしない……。だけど此処で反論してしまえば、この人に見切りをつけられてしまいそうで、今ここで本当の気持ちを告白することは出来なかった。 「そう、じゃあ。これからも宜しく」  理人さんは煙草を咥えて、微笑んでくると灰皿に煙草を押しつけて浴室へと入って行ってしまった。シャワーの音が虚しく響く部屋。  自分の気持ちが相手に通じていた訳では無かった。聖人さんは欲を満たす相手にしか見てくれていない事実に落胆する。  絶望的な始まりだけど、出会う前のようなただ遠くで眺めるだけの赤の他人に戻ってしまうよりはマシだと思いたかった。やっと繋がった関係を自ら断ち切ることはしたくない……。  少しでもいいから、この関係を続けていたら理人さんの氷のように冷たい心を溶かすことができるだろうか。欲求の対象としてじゃなくて、栗山徹史として、一人の人として、恋愛感情を抱いて求めてくれる日が来ないだろうか。希望が見えない訳じゃない。 どうしても、理人さんを手に入れたい。 理人さんが欲しい……。 こんなに欲しいと思えたのは理人さんが初めてだった。

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