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「ぜんぜん、大丈夫じゃないですから! 絵理久! 絵海琉! ちょっと戻ってきて!」 「いい、二人を……呼ばなくて、いい」  苦しそうな声で羅羽須に言われたが、瀬那の声を聞きつけて二人はもうこちらに向かって走ってきていた。 「僕一人ではどうしていいかわからないし。見た目は子供でも絵海琉は物知りだし、僕よりは頼りになると思って」 「いいんだ、これは……このまま、耐えるしかないから」  羅羽須が体を起こして瀬那の肩に手をかけた。苦しそうなその顔を見てオロオロするばかりで、どうすることもできない無力な自分が情けなくなる。  羅羽須が想像以上に瀬那の方へ体重をかけてきた。懸命に支えるも、すべてを受け止めることはできなかった。 「待って、ちょ、羅羽須さん、待っ……!」  瀬那の後ろは花畑で、きつい勾配がかかっている。羅羽須の上半身を支えきれず、瀬那は自分よりひと回り以上も大きな体を腕に抱え花畑に背中から倒れ込んだ。そこで止まれればよかったのだが、瀬那には支えきれなかったのである。瀬那と羅羽須は抱き合う形で、青極花の花びらを舞い上げながらその坂道を転がり落ちていく。 「瀬那! 羅羽須様!」  絵理久の声が聞こえたときは、瀬那の視界はもう上も下もなくなっていた。羅羽須の髪と一緒に青極花の花びらが宙を舞い、空と花畑が交互に見えて目が回る。どのくらい転がり落ちたのか、ようやく止まったとき、瀬那は羅羽須の胸の上でしがみついた格好になっていた。 「ん……っ、いててて、あっ、ら、羅羽須さん!」  自分が羅羽須の上に乗っていることに気づいた瀬那は、慌てて体の上から降りる。羅羽須の体は半分以上を青極花に埋もれていた。ピクリとも動かない羅羽須が心配になって顔を覗き込むと、苦痛に歪んだ羅羽須がにやりと笑みを浮かべた。 「苦しいときに無理に笑わないでください。動かないから頭でも打ったのかと、心配しました」  泣きそうな顔で言うと、なにかを掴んだ羅羽須の手が瀬那の前にふいっと差し出された。それはこれまで見たどの花とも違う色と形をしていた。 「え……これ、な、に?」

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