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第6話 朝のルーティン

「蒼っ……おっれっ……!きょ……も、そうさく……んん!」 「でも、今日たくさん抱いてよって言ったの、翠だろ? 夜だと恋人は無理だし、今しか無いだろ」  熱だまりの外側を、爪が触れるか触れないかの強さで、つーっと指を走らせてくる。少しだけ硬い刺激が走るたびに、腰が浮いた。  ぎゅっと目を閉じて耐えているけれど、触覚だって普通の人より敏感だ。蒼はそれをわかってちょうどいい刺激を与えてくれる。俺はその気遣いにいつも嬉しくなってしまう。 「痛くない? 気持ちいい?」 「ん……気持ち……いい」  仕事中は無駄な気遣いもしないぶっきらぼうな物言いなのに、こういう時は甘くて優しい話し方になる。それもまた、腰にクる。  カリカリと引っ掻くように絶え間なく刺激され、思わず嬌声を漏らした。 「は、あ、はああんっ」  直接触れているわけでも無いのに、透明な糸が見える。そこを蒼がぎゅっと握り込むとぐちゅんと濡れた音がした。  そのまま優しく手が上下に動き始めた。全てが甘くて、体全部が溶かされてしまいそうになっていく。  空いた手で顎を引かれ、扱かれるたびに漏れる声も、全て蒼の口の中に吸い込まれていく。 「うン……はっ、あう……んむ……」  蒼は最高だ。ガイドとセンチネルとしても、ビジネスパートナーとしても、恋人としても、全てにおいて俺との相性が最高だ。奇跡に近い出会いをしてから、俺は絶対に蒼を一生離さないと決めている。 「あ……も、もう……もー!!!!!」  はあはあと大きく息を吐きながら、枕を一つ掴んで蒼の顔にぎゅっと押し当てた。動きを止めて何事かと戸惑っているのがわかる。 「翠?」 「もう、やだ! 我慢ムリ! もういい、早くしよ……あ、ああああー!」  俺の言葉を最後まで聞かずに、ニヤリと笑いながら、蒼は俺の中にズズズ……と入ってきた。それも、急に入ると腹の底が抉られるような不快感に襲われるのを知ってるから、ものすごくゆっくりゆっくり入って来た。  ほんの数ミリ動くたびに、俺は下腹から胃の方に向かって押し寄せる快感の波に飲み込まれそうになっていく。  昨日しなかったはずなのに、なぜだか簡単に入った。 「蒼、寝てる間に色々したな?」  蒼はゆっくりと入りながら、ニコッと微笑んだ。それはとても含みのある、イタズラっぽい笑顔で、それを見るだけでキュウっと締め付けてしまった。 「んっ。何、翠。ドキドキした?」  きっと、起こさないように、でも気持ちよくなれるように、めちゃくちゃに優しく触っていたはずだ。  だからだろうな、昨日の夢がめちゃくちゃにエロかったのは。俺がおかしくなったのかと思っていた。  そんな気遣いしながらでも、俺に触りたかったんだなと思うと、嬉しくなるに決まってる。 「あっ、ああっ……は、あっ……」  横向きに寝たまま、俺のを握って優しく扱いたまま、首にキスをしながら、どんどん入ってくる。腰を押し出しながら、足を絡めてくるから、そこに意識が行くだけでもイキそうになってしまう。  低い階級のセンチネルと、ケアについて話した事がある。俺ほど敏感だと、抱かれるのも一苦労じゃないかと問われた事があった。 「敏感だと抱かれるのが大変なのか? 俺は一度も思ったことが無いけどな」  するとその男は、目を丸くして驚いていた。その時事務所に詰めていたガイドたちも、一斉に俺の方を向いて口々に「嘘でしょ?」と呟いていた。 「え? 本当ですか? いやいや、嘘でしょ? ランク5の俺でさえ、ガイディングの最初は痛いですよ。特急パーシャルとかだと、皮膚感覚だって異常に敏感でしょう? 最初が痛く無いのなら、ラッチさんがものすごーくロックさんのために気を遣ってるんですよ! だってガイドだって興奮してきたら加減なんてできなくなるでしょう? 共感能力に長けてるんだから、俺たちが気持ちいいとあいつらも気持ちよくなるんだし。二人でアガってからなら、多少乱暴にしても大丈夫ですけどね。ラッチさんって、ロックさんに痛い思いさせないために、めっちゃ頑張ってるんですねー。あ、それ、してもらえるの、当たり前じゃ無いですからね! 彼氏にはちゃんと感謝しておきましょうね!」  そいつはまだボンディング相手がいなくて、会社に所属しているガイドを選んでケアをしてもらっている。恋人はミュートだから、ケアをしてもらうことが出来ないんだそうだ。そうやって、恋人とケアを担当するガイドを分けて生きていく奴もいる。  でも、俺はラッチと出会ったことで、恋人を苦しめるということとは無縁の生活を送っていると思っていた。だから、この話は晴天の霹靂だった。   「こんだけ早口で一気に言ってしまわないと気が済まなくなるほど、すごい話ってことですよ!」  俺は今、あの時、あいつの言ってた「蒼がしてくれている気遣い」への喜びに、溺れている。  嬉しくて、愛しくて、俺ももっと蒼を喜ばせてあげたくなる。 「んっ、蒼。もっと強くしてもい、いぞっ……ん、あ……あっ、ぁあっ!」  ぐるっと向きを変えられて、蒼と目があった。ケアが必要だったわけじゃ無いから、もうアガって来た。痛みは感じない。こうなれば、なんの気も遣わずに、普通の人間同士として繋がっている事ができる。  俺の顔を見てそれを読み取った蒼は、腰を掴んで目一杯中を抉じ開けてきた。 「あ、あああああーっ!」  最初の一撃で腰がガクガクと震え始めた。 「あんっ……や、あ、あ、あっ、っつううン」  思いっきり引いては奥まで戻ってくる。 「すぃっ……」 「あ、あ、あ、はああああんっ」  ガクンっと体が跳ねて、俺と蒼の間に、白い飛沫が上がった。俺はそのまま全身がガクガクと震え続けている。 蒼は眉間に皺を寄せて、たまらなく気持ちよさそうな顔をしていた。どんどん早く、強く、俺の中に欲をぶつけていた。 「そぉっ!や、あ、や…だ、め、だ……ん、は、はっ、あああああん!!!」 「……っく!」  全身の電気系統がショートしたように、ブワッと興奮の波が駆け抜けていった。それと同時に俺は精神のコントロールが外れ、数倍に膨れ上がった快感が神経を駆け巡った。 「ふああああああ!!!」  絶叫してそのまま後ろにパタリと倒れ込んだ。制御出来なかった快感が意識を奪っていった。  落ちる寸前、声が遠くなっていく間に、俺の体にドサっと蒼が倒れ込んできた。  俺の強すぎる気持ちよさに共感してしまった蒼もまた、落ちてしまった。  とんでもなく激しく求め合ってしまったが、仕事の日の朝、実はこれがいつものルーティーンだ。

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