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第13話 アクリルケースとレジン3

 鉄平は、俺が逃げない様に両手の指を絡ませてぎゅっと握った。少し強く握られたところから、じんじんとした熱が伝わってくる。  その熱を感じながら、繰り返されるキスがちゅくちゅくと甘い音を立てていた。鉄平が息を漏らしながら角度を変えるたびに、ゾクゾクと体が震えた。 「鉄平くん、ゾーン入り掛けだったからあんまり深くはやんなくても大丈夫なんだけど、ストレス残してもなんだから一応任せるね。名刺置いていくから、あとで連絡ちょうだい。じゃあ翔平くん、俺は帰るよ」  果貫さんはそう言うと、俺の方を見てにっこりと笑った。そして、両手を合わせて頭を下げながら、ぺろっと舌を出した。 ——やっぱり、何か仕掛けて行ったんだな…  ガチャっとドアが閉まる音がした。そして、トントントン……と階段を降りる足音が遠ざかっていく。それを確認した鉄平が、唇を離した。  ちゅぽっという音だけでも恥ずかしかった。それなのに、俺の口と鉄平の口の間に、キラキラと光る糸が繋がっているのが見えて、思わず顔が熱くなった。  はあはあと息が切れながら、半分涙目で鉄平を見た。すごく気持ちよかったけど、鉄平はどういうつもりでキスしたんだろう…… 「鉄平? なんで俺にキスしたの? お前、ガイドだったっけ? 今のガイディングだよな……」  気がつけば動揺は収まっていた。唇は離したけれど、絡めた手は繋がれたままだった。その手から、どんどん溢れる気持ちが循環して増幅している。 『好き、大好き、好き……渡したくない……誰にも触らせたくない……誰にも触られたくない……』  触れた場所から気持ちが伝わって、増幅し合うのはペアリングしてる証拠だ。つまり、俺とそうなるということは、鉄平は紛れもなくガイドだと言うことになる。    それも、俺を好きって気持ちが流れてきてる… 「う、そだ……鉄平が俺のこと、好き……?」  おれが戸惑っていると、鉄平が額を俺の額にゴンっとぶつけてきた。突然のことでビックリして、しかもなかなかの痛みがした。思わず涙目になった。 「なにすんだよ!」 「うっせえよ! 学校でも助けたの俺だし、何より俺ずっとお前のこと好きアピールしてただろ!なんで気がつかねーんだよ」  確かにそう言われるとそうなんだよな……あの時、倒れた時、誰かにガイディングされてるはずなんだ。  でも、学校が用意したガイドなら相手を明かすはずなのに、絶対に名前を教えて貰えなかった。だから、薄々、鉄平なのかなとは思っていた。  でも、だからって俺のことを好きだとは思わない。だって、その倒れた日は、そもそも前日眠れなかったのが原因だ。寝不足で具合悪くて。  で、その寝不足の原因は、鉄平が女の子を抱いてるのを見てしまったからで…… 「だって鉄平、俺が倒れる前の日、部屋で女の子抱いてただろ? 外から見えたんだよ……なんかそれでめちゃくちゃ悲しくなって眠れなかったんだよ。それなのに俺のこと好きって何だよ……は? なに? な、なんで笑ってんだよ!」  鉄平は顔を逸らして笑いを堪えたまま、小刻みに震えていた。ものすごく可笑しいらしいんだけど、何かを話そうとして堪えている。 「あーもう、マジかよ」  鉄平はため息をつくと、俺の上にのしかかって来た。ずしっと感じる重みと、触れた面積が増えた事で、体中が気持ちよく震える。思わず声が漏れた。 「あっン」  その俺の声を聞いて満足そうに微笑むと、ぎゅうっと俺を抱きしめた。そして、耳朶を下からゆっくり舐め上げると、そっと小さな声で囁いた。 「あのな……その、お前が見たやつ……兄貴だから」 「えっ!?」 「あにき。|涼陽《すずひ》だよ。お前が見た女の子って、兄貴の昔っからの彼女だよ。|一未《かずみ》さん。俺の部屋使われたんだよ、あの日」 「は、はぁっ!? マジで??? うそ、じゃあ俺勝手に見間違えて失恋した気でいたのか……」  鉄平はブハッと笑うと、また啄む様なキスを落とした。そして、軽く不機嫌な顔を装い、首に口付けるととそのままじゅっと強く吸ってきた。 「あっ! んうっ……いたっ」  唇を離した鉄平は、ペロリと舌を出すと俺を見下ろした。 「俺のこと好きなくせに兄貴と間違えるし、勝手に避けるし。俺傷つきました。今両思い記念に、翔平いただきたいんですけど、いいですよね?」 「い、いただくって何だよ!? そ、そ、その前にちゃんと俺にも好きって言って……ひゃあっ!」  鉄平の手が、ゴソゴソと俺の前を弄り始めた。もっとちゃんと好きって言って、抱きしめてからにして欲しいと思ってるのに、体は鉄平の動きを追いかけて喜んでいる。  つつつ……と、下着越しに優しく触れられて、思わず腰がビクッと跳ねた。 「翔平、好きだよ。お前のケアは、俺にさせてよ。お願い」  それまでイヤらしく這い回っていたその手が止まり、真っ直ぐな瞳でそう告げられた。  俺はその目の光が美しくて見入ってしまった。見てるだけで、前がジンジンする。  だんだん、息が上がり始めた。またさっきみたいな昂揚感がやって来る。  モジモジと足を動かし、鉄平の目を見上げながら強請った。 「お、俺も鉄平好き。だから、ほんとは鉄平にしか抱かれたくない。だから、お願い。……シて」

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