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第18話 コンプレス、コンバート、アンプリファイ、リリース2

「翔平、好き」  鉄平は、俺の額にキスをして、髪を指で梳いた。俺は、鉄平の手の動きを見つめながら、その感触を堪能した。頬を擦り付けながら、触れたところから溢れてくる幸福感に浸っていく。触れられれば触れられるほど、じわじわ気持ちよくなっていった。 「俺も鉄平好き。絶対女の子好きだと思ってたから……本当に、めちゃくちゃ嬉しい」  俺がそう言うと、鉄平はふうと溜息をついた。そしてくしゃくしゃと頭をかき、恥ずかしそうに呟いた。 「実は俺もなんだけど。お前モテるし、絶対いつか女の子と付き合うんだと思ってた」  お互い不要な心配をしていたらしくて、それがおかしくてふふふっと笑い合った。肘をついた鉄平が、ゆっくりと俺の上に覆い被さる。すーっと顔を近づけて来たから、キスされると思ってぎゅっと目を瞑った。でも、待っても唇は触れて来ない。待ちきれなくなって目を開けると、俺の顔を見て鉄平が幸せそうに微笑んでいた。 「なっ……んだよ、キス、待ってたのに……」  ブーブー言う俺を見て、鉄平がクスリと笑った。 「ごめん、今の顔がめちゃくちゃ可愛かったから」  そう言うと、鼻先を擦って見つめ合った。そのまま少しだけ上を向く。すると、少しだけ唇が触れた。ツンツンと唇同士を触れさせ合った。そうやって戯れていると、だんだん心にじわじわと愛しさが溢れて来て、お互いにタイミングを計ったように、同時に深いキスに変わった。  でも、もうキスはたくさんした。  今はもっと深く繋がり合いたいんだ。  服を脱ぎかけのまま触り合っていたから、とりあえず服を脱がし合った。俺の五感の暴走は、さっきの深いキスでガイディングが出来たらしく、しっかり抑え込まれていた。でも今からは、違う感覚を持ち出して、増やして行く。初めてだから、慎重にやらないといけない。負荷がかかると、どうなるかわからないから。  鉄平のキスが下りてくる。 「あっ……」  鎖骨を甘噛みされて、思わず声を上げた。噛まれた側の骨が、全部震えるように疼いていく。その気持ちよさに引っ張られて、身を捩った。キスは、その場所からどんどん下へとゆっくり下がって行く。唇を吸いつけては、離れ、離したと思うと、移動する。少しずつゆっくりと場所を変え、刺激の強くなる場所に辿り着いていく。ずっとふわふわと気持ちよくて、気がつくと濡れた舌が胸の上を滑り始めた。 「あ、あっ……ンっ」  優しく触れる舌が、ふわふわと胸の中心を包んでいく。すごく優しくて、もどかしくて、思わず鉄平の頭をぎゅっと掴んだ。 「イテっ! なに? 嫌だった?」  心配そうに俺の顔を覗き込む鉄平に、被りを振って答えた。 「ちがっ……気持ちよくて。ごめん、ちょっと……たまんなくなっちゃって!?……あっ!やっ!あー!!!」  今舌で撫でられていた方にかぶりつかれて、吸い上げられた。先端は触れるか触れないかの刺激を保ったまま、まだ舐めまわされている。  その行き来が単調じゃなくて、時々ちょっとだけ強く押しつぶされたりして、予測のつかない刺激が連続して来るから、全部が気持ちよくて、波のようにビリビリと背中を駆け巡っていった。 「あっ! んっ! ン、ぅ……はあああん!」  そして反対側は抓られて、身体中がカタカタと震え始めた。いつの間にかじわりと涙が溢れて出て来た。次々と押し寄せる感覚になれなくて怖くなって、ジタバタともがいていると、鉄平が優しく抱きしめてくれた。 「大丈夫か? ちょっとゆっくりにしようか?」  そう言って、片手でぎゅっと俺の体を包み込んで、もう一方の手で髪を撫でてくれた。その手が優しくて、あったかくて、安心した。安心したら何故か余計に涙が出てしまって、鉄平が少し悲しそうな顔をしてた。 「あ、ごめん。なんか抱きしめられたのが気持ちよくて……なんか、安心しちゃったら涙が出て来ちゃった。辛いわけじゃ無いから!」  鉄平が俺に気を遣ってやめてしまわないように、俺は必死になってしまった。  だって、ずっとこうしたかったんだ。  ずっと、抱きしめられたかったんだ。  もうずーっと。  何年も。  隣に居られるだけで満足出来るような、浅い気持ちでは終われなかった。  叶うと思ってなかったけど、叶うかもしれないと思ったら、もう我慢なんて出来なくなっていた。 「やめたらヤダ」  さっき電気を消したから、カーテンの向こう側の街灯の灯りが、少しだけ漏れて見えていた。鉄平はその光を後ろから受けていて、俺のその言葉を聞くとその目に光がキラッと反射したのがわかった。すごく、大きく目を見開いたみたいだった。  そして、ぐっと息を呑んでから、すごくゆっくり、全部が長くて丁寧なキスをしてくれた。ふわふわした唇どうしが触れて、離れて、振動で揺れるのがわかるくらい、丁寧でゆっくりとしたキス。  その唇が離れていく時に、はあっと漏れた息がすごく色っぽくて、耳に響いて身体中の骨が震えたかと思うと、前が疼いた。  額同士をコツンとぶつけて鼻を擦り付けると、鉄平が「止めないし、止まれないから」と呟いた。  そのままキスを繰り返しながら、期待にうずく熱に手を伸ばしていった。 「ん、ン」  部屋着のスウェットパンツのウエストに手をかけて、下着と一緒に脱がされていく。俺は何も言われないけど、そのままじゃやりにくいかなと思って腰を浮かせた。それに気づいた鉄平が、クスッと笑った。 「な、なんだよ。なんか変なことした? あ、腰浮かせたやつ、やる気満々ぽくて引いた?」  言いながら自分の顔が真っ赤になるのを感じた。鉄平はそれに答えずに、どんどんキスをしたに下ろしていく。 「ねえ、ちよっ……なんか言ってよ。……あっ!」  脇腹や臍の周りに唇が触れた瞬間、体の裏側まで刺激が抜けたようにビクンと腰が跳ねた。 「あ、ねえ、ちょっと、もしかしてそれ」 「うん」と答えながら、鉄平は舌を伸ばした。脱力した舌で、先端にちょっとだけ触れられた。 「うあん!」  突然の刺激に僅かにビクンと逃げた腰を、鉄平の手ががっしりと捕まえた。その手を滑らせて背骨をつーっとなぞっていく。その間も、舌はほんの短い時間、先端をやわやわと突いていた。その短い刺激が何度も繰り返されると、すごくもどかしくて、また涙がボロボロと溢れてきた。 「ああ、あっ、や、やだ、も、それ、んううう」  焦らされて耐えきれなくなって、足をもじもじと動かしていた。気持ちよくてどうしたらいいかわからなくて、あたふたとしていると、パチンとローションの蓋が開く音がした。そして、チューブからジェル状のものが出てくるチュルっという音が、俺の心臓をドクンと跳ねさせた。その音が、響き渡ってくる。体全部が心臓になったみたいに、ドクドクとうるさかった。 「あんまりしなくていいんだろうけど、ちょっとだけ触らせて」  鉄平はそう言うと、指をゆっくりと中に滑らせてきた。すごくゆっくり、どこにも引っかからないように、丁寧に丁寧に入ってくる。 「あ、あ、アッ……あっ……」  指が入った状態で、「大丈夫か?」と声をかけてくれた。俺は少し息が上がってるけど、痛くは無いから「んっ、だ、大丈夫」と笑って返した。  チュクチュくと音を立てて、指が出たり入ったりする。その感覚が、自分でする時と全然違った。思わず少しずつ声が漏れる。グチュっと中に入ってくるだけで、ゾワゾワと軽い刺激が走ってきた。  自分の手じゃないとこんなに違うんだと思ってびっくりしてしまった。その驚きが鉄平に伝わったみたいで、心配そうに俺を見つめていた。   「怖い?」  共感力が発動すると、気持ちが誤魔化せないから困る。ほんの少しだけ、指一本入れただけでこんなに気持ちいいなら、これからどうなるかわからなくて怖いと思ったのが、もう伝わってしまった。 「っき、気持ち良くなり過ぎそうなのが、こ、こわ、い……あっ」  話に意識が向いているタイミングを狙って、指が二本に増やされた。そして、中をぐるっと指が回転したと思ったら、少しだけ奥に向かって進んで来た。俺はそれが気持ちよくて身を捩った。それと同時に、へそに向かってぐいっと押される感覚がした。 「あ! あああっ! んっちょっ……そこ、やっ」  それまでと違う、意識が勝手にそこに集中するような刺激があった。俺は自然と口を開けたまま、ずっと小さく喘いでいて、その口を鉄平が一瞬塞いだ。でも、それは本当に一瞬で、そのまま顔はまた下に降りて行った。  チュウ……と音を立てて、鉄平は俺のを口に含んでいた。指はナカに入ったまま。同時に攻められて、だんだんナカで擦られてるところが、ぷにぷにした感覚から少し硬度が増したように感じた。推されているだけなのに、自分でもそれを感じることにも驚いた。それが固くなるに連れて、前もどんどん硬くなる。  ぐちゅぐちゅという音と、前も後ろも言いようのない気持ちよさに満たされて、俺は息を乱していった。 「あ、あ、ヤダ、ヤダ、ああん、あっ」  そんなに激しくされてる訳でも無いと思うのに、顔がどんどん熱くなって、胸がバクバクしてどうしたらいいのかわからなくなってくる。窄めた口がジュルッと音を立てて上がってくる度に、舌で撫でられる先端が気持ち良過ぎてまた涙が溢れた。 「あ、あ……す、ごい。気持ち……鉄平、鉄平……」  ジュプッと音を立てて、3本目が入った。それが入ってきた瞬間、ビクンと腰が跳ねた。  裏筋にすぅっと舌が這う。それだけでも堪らないのに、ナカはグニグニを指で挟まれるような形のまま擦られ続けていた。 「やああああ! だめ、だめ、だめー! それ、だめ、しちゃ……」 「気持ちい? イキそう? めちゃくちゃ可愛い顔してる、翔平」  ちゅぽんと音を立てながら、口を離した鉄平が、俺の顔を覗き込んできた。もう息も絶え絶えて、お尻が気持ちいいとしか思えず、ぼーっとしながら鉄平の顔を見ていると、いつの間にかローションをつけた手で、前も同時に擦られ始めていた。 「はあんっ! あっ、あっ、あっ、いっ、や、や、や!」 「ヤバい、何その顔、見てるだけでイキそうなんだけど……」  膝を立てて、腰をガクガクさせてる俺を見ながら、鉄平も真っ赤な顔をしていた。それも今まで見たことがないくらい、すごく色っぽくて男らしい顔だった。俺はその顔を見ていたら胸がぎゅっとなった。   「あああああ、もっ、い、くっ、う」  ぎゅっと目を瞑ったまま体にどんどん力が入っていった。初めての感覚にどうしたらいいかわからなくて戸惑っていると、指が抜けて鉄平が俺のナカに入って来た。 「やあああああああ!」  俺は鉄平が入って来ただけでイってしまった。  びゅっと白が自分の枕元にまで飛んできて、パタパタと音を立てていく。体がガクガクなるのを感じながら、一瞬痛みに襲われた。    でも、その後の共感と快感のループがそれを忘れさせた。 「あっあっあっあ! ど、しよ……てっぺ、鉄平ぃー!」 「うわ、ヤバい、俺もわかんない……気持ちよ過ぎてヤバい!」  ペアリングした能力者同士のセックスは、無限快楽に陥ることがある。病気が無い限り、それ自体は全く問題ない。ただ、俺たちは二人ともこの日が初めてだった。初めての時にそこまでなることは稀で、しかもこの時はケアでは無く恋人同士のセックスのつもりだった。予想以上の快感の増幅とそのループに気持ちが追いつかなくて、二人で狼狽えてしまった。 「あ、ああん、あ、す…き、好き、鉄平好き」 「俺も好き。翔平、翔平……あ、うあ、っぐ」  好きと気持ちいいの感情の波だけに飲み込まれて、声も出せなくなって言った俺たちは、それでもつながり続けていた。だんだん部屋の中には、口から漏れていく甘い息と、体が打ちつけ合う音だけが響いていた。そして、高まりきった二人の体温がお互いの体から引き出した甘い香りが漂っていた。  片足を抱えられて、横向きに寝転んでキスをしながら、鉄平の全部を飲み込んだ。  それでもまだ足りなくて、それから何度も、俺が寝落ちするまで抱き合った。 「翔平。俺たちずっと一緒だからな」  疲れ果てて遠のく意識の向こうに、すごく柔らかく微笑む鉄平の顔と、大好きな匂いを感じていた。少し前まで絶望しかなかった俺の暮らしに、小さく希望の火が灯っていた。 「俺のガイドが鉄平で良かった…」  そう呟いた俺に、鉄平はまた優しくてうっとりするようなキスを一つ落としてくれた。

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