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第24話 シグナル、トランス、レシーブ

 翔平が誘拐されてから数日後、当初誘拐犯だとされていた大垣さんが、行方不明者として届出がされていたことが分かった。届出をしたのはパートナーの男性だという。だたし、成人の行方不明者の場合は、警察もあまり積極的には動かない。パートナーとして出来ることが限られていて気を揉んでいたところに、あろうことか、大垣さんが誘拐犯として名指しされた。それで、警察署に怒鳴り込んできたそうだ。 「その男性、誰だったと思う?」  リカバリールームから戻って、ひとしきり抱き合った後に、翠が俺に尋ねた。向き合って横になり、翠は俺の胸に頬を寄せてこちらを見上げている。カフェオレみたいな髪を指で梳きながら、大垣さんの顔を思い浮かべていた。そんなに大垣さんとよく話していたわけでも無いし、見かける時はいつも彼女は一人だった。それに、プライベートについては知る由もない。そして、俺が会った人たちは、大垣さんのパートナーについては誰も知らなかった。全く検討がつかなかったので、翠をぎゅっと抱きしめながら「見当も付かない。誰だった?」と訊いた。 「それがなんと、晴翔さんだったんだよ。晴翔さん。信じられるか?」 「え、永心晴翔さん? あの人、恋とかするんだ!?」  永心晴翔は永心咲人の兄で、うちの研究所の研究の鬼とばれている人だ。ツールは全て晴翔さんが監修したものが採用されている。永心兄弟は母親をゾーンアウトで失っている。長兄は将来を選ぶことが出来なかったけれど、次兄である晴翔さんは、センチネルの生活上の不都合を少しでも減らせるようにと、長年熱心に研究に励んで来た人だ。休みであっても何かしら研究に関わることをしていて、これまで恋愛をしていたという話を聞いたことがなかった。それが、大垣さんと付き合っていたどころか、同棲して養子を迎える準備をしていたらしいことが発覚したわけだ。周囲は、みんな驚いていたという。翠はその報告を田崎から受けた時、こんな時に冗談言うなんてらしくないぞと怒鳴ってしまったらしい。それくらい、信じられないことだった。 「そうか……あ、大垣さんと真野翼さんが一緒にいなくてもなんとかやってこれたのは、ここのツールのおかげだって言われたんだけど、晴翔さんがそばにいたのなら、それは本当にそう思うだろうな。何か不具合があっても即対応してもらえるからな」  確かに翼さんから聞いた話だと、大垣さんの今の恋人はガイドだと言っていた。ただ、翼さんよりランクが劣るため、翼さんのマメンツが無いと今の恋人からのケアが受けられない。そのため、翼さんは大垣さんから「マメンツの制作に協力してほしい」と頼まれたと言っていた。そして、それを渡して別れたのが最後だと言っていた。 「晴翔さんってランクなんだったっけ?」 「ガイドランク10。普通だったらマメンツは必要ない。でも翼さんは特級だからな。そうなるとマメンツが不可欠だろうな」  翠は、額を俺の胸にスリスリと擦り付けている。そして、何か引っかかっていることがあるようで、ずっとうーんと小さく唸り声をあげていた。 「何? どうかしたの? 何か気になってる?」  やや機嫌が悪そうな態度で、ずっと俺の体に自分の体を擦り付けていた。まるでマーキングをしているみたいで、必死で自分の所有を知らせようとしているように見えた。でも、一体何に対してそんな焦りを見せているのだろう。翔平のことは抱かなかったと報告したはずなのに……。 「だって、なんか違う人の匂いがするんだよ。お前、翔平以外のセンチネルに会った? 触れたりした?」  そう問いかけてきた翠を、何を馬鹿げたことを言うんだと思いながら抱き竦めた。今日は、翔平と永心以外にセンチネルには会ってない。そして、どちらにもケアはしていない。正確に言うと、翔平には軽いケアはした。でも、それは報告済みだ。翠の態度からして、そのことではない。でも俺には一切心当たりが無い。何をそんなに警戒しているのだろう……。 「今日他に接触が合った人は? あ、犯人は? センチネルだった? それならわかるんだけど」 「いや、あいつはミュートだろ? 触っても何も感じなかったから」  ううん、と難しい顔をして翠が悩んでいる。どこかでセンチネルとぶつかったりしたのだろうか。ものすごくモヤモヤするらしく、顔がすごいことになっていた。  せっかく二人でゆっくり過ごせる時間に、あんな顔をさせていては勿体無い。どうしたものかと考えあぐねていた。 ——そうか、匂いなら落とすか上書きすればいいんだな。  うん、と独言て体を起こし、翠を抱き抱えた。そして、そのままスタスタとバスルームへ向かった。 「何? 風呂? 俺も行くの?」  慌ててしがみつく翠にキスを落として、そのままスタスタと歩いて行った。 「ねえ、ちょっと。蒼!」  そのままバスルームに入り、湯船に翠を座らせた。元々このくらいの時間に入るつもりだったから、今ちょうどお湯は温かい。俺は湯船の中にバスボムを入れ、泡風呂にした。そして中に入って翠を抱き寄せた。翠の大好きなノーズキスとスローなキスをした後に、耳に唇をそっと押し当てた。 「俺から嫌な匂いがするんだったら、翠が洗って消してよ」  そして、翠の手をとり、その甲に口付けた。そのままその手を俺の胸に当てて、俺が壁際に移動すると、翠は上目遣いに睨みながらも、俺の体に手を滑らせ始めた。 「センチネルの匂いがするんだ。しかも、俺や翔平と同じくらいの高レベルの匂い。すごく嫌な匂い。取られてしまいそうな、怖い匂い……」  翠は両手で泡を掬い取ると、それを俺の胸に押し当てた。そして、その泡をスーッと首筋にまで伸ばし、首元をくるくると手のひらと指で撫で回していく。唇が触れそうな距離で俺を見つめながら、肩まで泡を広げて撫でていく。耳の下あたりに泡を足して、ゴシゴシと擦ると、確かめるようにスンスンと匂いを嗅いだ。 「ちょっと、それ、なんか加齢臭の確認っぽくていやだ」  俺がケラケラ笑っていると、翠は眩しそうに柔らかく笑っていた。そして、湯船の中に手を沈めると、白くて全く見えない水の中を進んでいく。目はずっと、俺を見ている。その逸らさない目が、欲に濡れているから、俺はだんだん心臓が忙しなくなって来ていた。   「ふっ……」  つつ、と腿を指先が這う。そのまま中心まで迫ってくる。でも、寸前でそのまま消えていく。 「んっ」  少しがっかりしていると、反対側の腿を手のひらが滑っていく。上気した頬で、濡れた瞳で俺を見ながら、足の全てを翠の手が滑っていった。  翠の息が、首筋にかかる。短く繰り返される呼吸が、期待に濡れているのがわかった。突然、中心に手が触れ、俺はビクッと跳ねてしまった。 「ん!」  それを見て、翠はトロンとした顔をしていた。俺が反応したのが嬉しいみたいだ。 「ここ、使わなかったんだよな?」  そう言って、そっと俺の熱を確かめるように握りしめた。とろみのあるお湯が、翠の手と俺のの間を繋いでいる。見えないままで、刺激だけが伝わって来た。握ったまま優しく上下していく手が、独占欲で満たされているのが伝わってくる。 「翠……可愛い……そんな顔して。安心して、使ってないよ」  俺の言葉に安堵して、にっこり頷きながら頭を俺の胸に預けてきた。手はそのまま、俺を喜ばせようとしてくれていた。気持ちが良くて気を抜いた瞬間、今度はゆるゆるとした刺激が走った。空いた手で、握った手のしたの方を触っていた。 「ン、翠……どこ触ろうとして……っあ!」  翠は俺の中心と後孔の間を、指でそっと押しながら根元に向かって滑らせてきた。一瞬、言いようのない刺激が走り抜けていった。その俺の顔を見て、翠はニヤリと笑った。その指を、横に小刻みに動かしながら、中心の手を動かし続けている。 「ちょ……っと、待って……、あ、あ、あ……」  気がつくと、バブルバスのお湯は全て抜かれていた。俺は、突然始まった翠の攻めに、気持ち良すぎて顔が熱くなっていた。頭がぼーっとしていて、意識が飛びそうなほどにふわふわしていた。翠は、滑りの良くなった俺の中心を、先端を狙ってひたすらにいじめ抜いていく。 「ああ……は、あ、……な、に、ソレ」  獲物を捕らえた肉食獣のような顔をして、翠は俺の反応を楽しんでいる。だんだん、先端がトロトロと蜜を垂らし始めていた。中心には熱が溜まり、みっしりと充実して硬くなっていく。さわさわと優しい刺激が繰り返されている会陰のもどかしさが、腹の奥で暴れ出しそうだった。たまらなくなってくると、さらに追い討ちをかけるように、ぐっと少しだけ強く押し込まれる。その度に、思わず声が漏れていった。 「翠、気持ち……ンっ」  小さく喘ぎ続ける俺を見て、翠は満足したのか、急にシャワーをぶっかけてきた。あまりにも突然で、俺は死ぬほど驚いてしまった。 「うわっ! 何、急に……うっ!」  ソープが流れて綺麗になった俺のを、翠が突然口に咥え込んだ。さっきまで刺激されていたところは、まだすりすりと触られたまま。強烈な刺激が体の中に膨れ上がって、思わず翠の頭を掴んでしまう。これまで一度も出したことのないような、快楽に飲み込まれそうな喘ぎ声が口から次々と飛び出してしまった。 「あ! ああ! 翠、やめ……う、あ、あ、あああ!」  翠は一瞬ブルっと小さく震えた。そして、ちゅぱっと音を立てて口を離すと、俺の前に膝立ちになった。 「俺ももうダメ……このままする」 「え、でも準備……」 「今してた」  そういうと、そのまま腰を落として俺を中に迎え入れてくれた。 「ンう! や、ば……もたないって、これ」 「あ、あ、す、ごい、おっ……きくなって、る! うン」  俺は半分力がつきかけていて、翠が激しく腰を振った。さっき何度もケアしたから、俺よりは翠の方が回復は早かっただろう。それにしたって、がっつき方が今までに無い激しさだ。完全に、独占欲に駆られていた。 「あ、あ、あ、蒼……俺のっ……俺、のっ」 「そうだよ……翠だけのだ」  激しく喘ぎながら動き続ける翠を見ていると、俺もだんだん滾ってきて、いつの間にかまた動けるようになっていた。翠の腰を両手で掴むと、したから激しく奥に向かって打ちつけた。 「ああああ! 蒼、そ……んんんんん!」  翠が背中をのけ反って身を捩らせていくから、俺は目の前に現れた小さな粒を口に含んだ。そして、それを甘噛みしながら、さらに激しく奥へと進む。 「あああン、あン、あ、あ、あ、はああ……!」  翠のナカが、俺のに絡みついて、ギュウウと搾り取るように蠢いた。そして、二人の体の間に白がビュクッと噴水のように跳ね上がって来た。その瞬間、握りつぶされそうなくらいの力が俺にかかった。 「うあっ! 翠……お、れも、んっ」  翠の中で欲を吐き出しながら、愛しくて愛しくて、気が狂うかと思った。  折れるほどに抱きしめながら、その思いだけが頭を占めていた。 「愛してるよ。翠だけだ。ずっと、翠だけ」  他の人など欲しくない。俺には翠だけでいい。例え仕事で他の人を抱くことがあったとしても、それはただの行為であって、それ以上になることはない。そして、逆に翠とのセックスがただの行為になることは絶対に無い。  センチネルとガイドに生まれついた以上、そして、この仕事を始めたからには、ずっとついてまわる嫉妬の問題。それでも俺たちは、必ずお互いを必要としていく。それだけは、絶対に変わらない。 そして、「求めて、愛して、満たし合う」それによって、幸せになれる人を増やしたい。  だから、毎日能力を使う。正しいことへと向かえるように。それがどんなに自分たちを苦しめて行っても。二人で補い合うから、大丈夫なんだ。  すぐに気がつくセンチネルと、癒すことができるガイド。辛さは悲しさはエンパスすれば文字通りに分け合える、お互いに寄り添い合えば、無敵だ。だから、お互いはちゃんと甘え合わなくちゃいけない。それが、俺たち能力者に与えられた特権だ。 「これからもずっと、俺たちはお互いの半分だ。最初に約束した通りだよ」  その言葉で、翠は安心したようだった。スンスンと俺の体の匂いを嗅ぐと「よし、オッケー」と笑った。

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