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第34話 愛していく
玄関のドアを開きながら、お互いの舌を絡め合う。ジュルジュルと水音を響かせながら、部屋の中へと進んだ。リビングを通り抜け、ベッドルームへ辿り着くと、激しいキスとは対照的に、蒼は俺を壊れ物を扱うようにそっと降ろしてくれた。
「んっ」
俺のネクタイを緩めながら、耳や首筋にキスを落としていく。シュルシュルとネクタイを抜き、それを端に寄せると、シャツのボタンを丁寧に外してくれる。一つずつ、キスとセットで、ゆっくりゆっくり開かれていく。全部外して前を開くと、脇腹から背中にかけてスルスルと手を滑らせていった。
「あ、ンっ」
身を捩ると、突き出された方の胸の先端を、濡れた舌がそっと這い回ってきた。
「ひぃゃあっ!」
「びっくりした? 食べてって言ったのかと思って」
そう言って笑う蒼を見ていると、後孔の奥がズクンと疼いた。その疼いた場所を、蒼の大きくて温かい手が、すうっと触れていく。上質な布が触れているような、ほんの僅かな摩擦から生まれる気持ちよさが、背中を這うように移動していった。
「あっ、そこ、その奥がっ、あっ」
「んー? ここの奥?」
さわさわと触れていた手が、尾骶骨のあたりをグッと押してきた。奥から前の方に向かって、ビリビリと刺激が走る。
「ああン! あ、気持ちっ……」
何度かグッグッと軽く押されると、その度にジンジンと前に熱が溜まっていくのがわかった。胸を這っていた舌は、唇で甘噛みするようなキスと交互に下へ下へと降りてきた。へその周りに顔を埋めて、ちゅうっと深いキスをされると同時に、また尾骶骨を押された。
「んんんンっ」
ゆるゆるとした刺激なのに、確実に少しずつ疼きが増していく。焦ったくてもどかしくて、両足をすり合わせて耐えていた。
「翠、どうしたいの?」
内腿を手のひらで撫で回しながら、反対の内腿にキスをする。少しずつ「んっんっ」と短く声が漏れてしまう。蒼はイタズラっぽく笑いながら、鈴口にたまるとろりとしたものを指で掬って、そのままそこを優しく押し広げながらクルクルと円を描いていた。
「あっ! それ、や、だ……あっ!」
先端にまとわりついた蜜の上を、指が滑るたびに後孔がヒクヒクと動いた。きゅんっと何度も甘イキしている。その蜜の上から、蒼の舌が優しく包み込んでくる。大きく開けた口の中に、全部を飲み込まれて、喉奥で締め付けられると、勝手に腰が揺れた。
「あんっ! あ、そんな奥まで咥えちゃ、だっめっぇ!」
ぎゅっと絞られた喉から解放された熱を、今度は手で愛撫してくれる。今はケアだから、とにかくしてもらうばっかりだ。申し訳ない気持ちと、もっとして欲しい気持ちがないまぜになって、それがさらに気持ちを昂らせていった。
指につけた蜜を、熱の形に伸ばしていく。そのまま優しく上下に手が動くと、連日の疲れもあってか、一気に昂まってイってしまいそうになった。しかも、さっき押された尾骶骨に、気持ちよさがずっと残ったままになっていて、ふるふると体が震えて全てが共鳴するように体を支配していった。
「あ、あ、あ、蒼……だめ、すぐイクっ」
「いいよ。ケアしないと。今はとにかく気持ちよくなって」
そう言って耳にチュッとキスをくれた。そのまま、耳を舌で撫で回していく。ちゅぶちゅぶと耳の奥まで響く卑猥な音が、ただでさえ昂っている気持ちを、さらに押し上げていってしまう。下腹から飛び出したがる熱さが、どんどん体を赤く染めていった。
「ふああん、耳、声が大きくなる……」
耳の気持ちよさに思わず蕩けそうになっていると、急に後ろ口にぬるっと指が入ってきた。そして、一気に奥まで進むと、クイッと押された場所がぷにぷにと反応していた。
「あああんっ! や、急に……」
ぐちぐちと音を立てながらそこを出たり入ったりして、優しく優しくほぐされていく。その動きの全てが、俺のことを大切だと伝えたがっていた。
『好きだよ、愛してるよ、絶対に悲しませたりしない。何があっても、絶対』
お互いに好きで好きでしてるセックスが、これまで経験した事がないほどに、どうにも悲壮感を含んでしまっていた。それは、今日の翼さんの姿を見てしまったからに他ならない。
かつて自分が愛していたセンチネルの命を奪った人が、今自分が愛する夫だった。それも、夫の思い込みが起こした事件だ。晶さんから涼輔さんに何かしていたわけではない。むしろ、晶さんは結婚した翼さんの幸せを邪魔しないように配慮していた。それに、翼さんは、本当に心から涼輔さんを愛していた。それは、能力者なら誰にでもわかるくらい、うるさいくらいにいろんなところから「聞こえ」ていた。
でも、涼輔さんはミュートだ。本人が見えているもの、聞こえているものを信じない限りは、それ以上伝えようがない。涼輔さんは、蒼に『自分に自信がない』と言っていたらしい。その部分は、ある程度の助力は出来ても、最終的には本人にしかどうにも出来ない問題だ。それでも、翼さんは、配偶者としての自分の「不出来」を責めていた。
「私が、普通の女だったら、晶は死ななくて良かったんじゃないですか?」
誰にとも言わず、そう自分を責めて泣いていた。俺たちには、その気持ちを正確には理解してあげることは出来ない。でも、一つだけ、はっきりと否定してあげられることがあった。
「そういうふうに考えてしまうと、翔平が生まれてきたことが否定されます。それに、涼輔さんはあなた自身を愛していたからこそ罪を犯したんです。今のあなたが好きなんですよ。だから、そこは考えないで下さい。もし悔やむことがあるとしたら、もっとお互いの気持ちを伝える機会を持てば良かったかもしれないって事ですね。でも、それも本当のところはどうなのか、誰にもわかりませんから」
どれほど愛していても、それを信じてもらえなかった悲しみと、その原因となったのが、自分が能力者であったということだと翼さんは思っていた。でも、その全てを排除したとしても、涼輔さんが翼さんを信じきれなかったことが問題だ。問題は涼輔さん自身の中にある。それに、何よりも、どれほど自分に自信がなかろうと、目の前に死にかけている人がいて、トドメを刺すという選択をしたのは本人の問題だ。その全てを、配偶者だからと言って、一人で背負わなければならないとは言い切れない。そんなに単純な問題として考えてはいけないはずだ。
そんな愛の壊れる場面を見てきたからこそ、蒼は俺をいつも以上に深く愛そうとしていた。俺にもそれは十分伝わっていて、何よりもケアをいつも以上に念入りにやるだろうなとは予想していた。でも、実際は想像の何倍も甘くて、甘さに悶えて窒息しそうだった。
蒼は、俺をうつ伏せに寝かせると、足をまっすぐに伸ばしていった。そして、後ろに回って覆い被さると、俺の下に自分の熱の塊をズッと差し込んできた。
「ぁあっ!」
寝バックでするのかと思ったら、寝たまま素股をしている。入れないの? と聞こうかと思ったけれど、ものすごく刺激が強くて、言葉が出せなくなってしまった。
「っ、ぁん、あっ、あっ」
口から溢れる言葉は、全部同じになってしまう。それより長い言葉が話せない。気持ちいい。気持ちいい……それしか考えられなくなっていった。
「ん? 気持ちいの? 顔真っ赤になってる」
根本から先まで、全部擦れる。気持ちよすぎて、腰がヒクヒク動いていく。だんだん蒼が体重を俺に預けてきてくれて、その重みにさえも愛を感じた。優しく触れられる胸、首や背中に降るキス、そして、ゆっくり後孔に入ってきた。
「ふあ、あ、あ、あ!」
とてもゆっくりゆっくりと進んでくる。その途中で、どうして今日は寝バックなのかを知った。挿入しながら、俺の前を触る。それだけでも刺激が強くて、体が小刻みに震え始めた。そこに、もう一つ、やわやわとしているのに圧倒的な刺激が加えられた。
「あっ! …ンん! はぅ……ンぁっ!」
左手で扱かれながら、右手で会陰を押されていた。もちろん蒼は入ったままだ。下腹部の筋肉が全部固まってしまったのかと思うほどにぎゅうぎゅうになって、気持ちよすぎて逃げ出しそうになっていた。
「あああああ! だめ、だめ、それだめえええ! い、い、いっ……!」
ビクン! と体が跳ね上がった。はーはーと息を吐くことしかできず、吸っても吸っても息が足りなかった。それでもまだ、蒼は止まらず、ずっと部屋中に体がぶつかる音が響いていた。
「蒼っ! も、ダメ、よすぎて、ぃあっ!」
前を扱かれているのに、さっきは出なかったみたいで、また昂りが襲ってきた。後ろがいっぱいに開かれた状態で、会陰からの刺激でナカはぎゅうぎゅうに締まっている。蒼が少し角度を変えると、ゴツンとぶつかる音がした。
「あっ、そこっ、そのまましたら……」
「どうなる? いつもここまで出来ないけど、今日は絶対する。もう覚悟して」
「あっ! ん、い、いけ、ど。こわ、いぃ、い」
「キスする? キスしたら怖くないよ」
返事もそこそこに、俺は体をぐいっと回して片腕を蒼の首に絡ませた。その状態で、夢中でキスに溺れた。今から襲ってくる興奮の波は、いつものセックスの数倍強烈だ。そのためにゆっくり時間をかけないといけないから、普段はそこまでしない。でも、蒼が俺に気持ちをぶつけたくなった時に、何度かしたことはある。本当に気持ちよすぎて、辿り着くまでに怖くなって泣いてしまったりする。それでもキスはその怖さを逃してくれるから、唇がちぎれそうなくらいにキスをした。
ゴツンとぶつかった場所が、だんだんと濡れた音を立て始めた。そして、ズ、ズ、ズと少しずつ、いつもなら開かない場所へと入っていくのを感じた。そして、一瞬すっと開いたその場所へ、蒼はずるりと入り込んだ。その瞬間、身体中からブワッと快楽の波と汗が一気に噴き出してきた。
「は、はああ、ああああ……やああああ!」
「きた? っ! や、ば、持ってかれそ……」
「あぅ、あっ、あっ、あっ!……!」
「っ……! 翠、俺も、イ、ク」
バチュバチュと体を打つ音と水音が入り混じりあって、ブワッとこの時にしか立ち上らない香りがし始めた。これは、おそらく俺にしかわからない匂い。細胞の一つ一つ、ミトコンドリアの一つ一つがエネルギーを放つ匂い。それは、生体として最高にイイ状態になった時にしか得られない香りだ。
その最高潮を迎えて、体がガクガクと震え、出てくる言葉も悲鳴のような声だけになる。ドライで何度もイッってる俺は、もう声が枯れて、言葉にならなくなっていた。
「そ……蒼、好き……イッ……!」
「あ、翠、愛してるよ……っ!」
ビュクッと俺から飛び出した白が見えなくなるほどに、俺の視界が真っ白になって光が明滅していた。
「愛してる、蒼」
悲しい愛の終わりを見た夜、他の誰かの恋や愛が悲劇であったとしても、俺たちはそうはならないと、二人でもう一度誓いあった。
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