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Until day breaks

 夏本番とまではいかないが、半袖でも過ごせる気温の中、風紀室に書類を持って来ていた。うっすらと額に浮かんだ汗を拭いながら、ネクタイを緩めて首元を寛げた。 「青柳、追加の書類だ」 「またあのクソガキか?」 「おう、西校舎でFクラスの三人と喧嘩だ。どっちも軽傷だが、うちの馬鹿共は三人掛かりで転入生に暴力を振るったのが許せないって喚いてんだよ」 「チッ、面倒くせぇな……お前のリコールを阻止したら次は学園中荒らしやがって」  苛立ちを隠そうともせず、青柳は書類をざっと流し見る。書類に並ぶ『備品破壊』の文字に頭が痛くなる。今月に入ってこれで五回目、通算二十回目だ。 「もう証拠は十分揃っただろ?」 「あいつらも戻る気はないらしいし、いいんじゃねぇか?」  その内戻ってくると生徒会役員達を待っていた赤羽も、先日起こったとある一件で、完全に期待するのを止めたようだ。何でも許す程、赤羽はお人好しではない。  転入生に絡まれてしまった自分の失態さえなければ――そう思う反面、そもそも転入生が来なければこんなことにはならなかったのに、とも思っていた。赤羽がそこまで考えるような間柄の人間は、もちろん青柳と浅黄の二人しかこの学園には存在しない。  近寄りがたいイメージと『一匹狼』の名の通りの独立した強さで、今まで下手に絡まれることがなかった浅黄を狙う連中が急激に増えたこと。すべて返り討ちにして本人は無傷でいるとはいえ、腸が煮えくり返る思いで赤羽は今、仲間の――いや、元仲間だった――彼らと転入生への処分を認めた。  すっかり広まってしまった浅黄と青柳と赤羽の腐れ縁情報は、しかし、どこまでの事実がどういう伝わり方をしているのかは把握していない。文字通りの意味で、ただの腐れ縁だと伝播しているならそれで良いのだが。  新聞部辺りにでも目を付けられてしまうと、厄介なことこの上ない。余計な意味を孕んだ目で見られるようになると、ただでさえそれぞれ様々な注目を集める三人だ。集まる機会をぐんと減らすしか方法がない。低俗な情報ほど安易に広まるのだから質が悪い。  それならば、一刻も早く手は打つべきだろう。きちんと必要な書類も証拠も覚悟もすべて、ある。  だから、例え依怙贔屓だと言われようと、赤羽は彼らのことを守る決断を下した。自分の居場所までも壊されて堪るものかと、赤羽は今までずっと渋っていた手を青柳に差し出した。  ぱちり、と目を開く。既に陽は沈みかけており、随分と深く眠ってしまっていたのだと浅黄は気付いた。転入生に見つかる度に絡まれて、よく分からない生徒にも絡まれて、普段は滅多に行くことのない風紀室に、最近は頻繁に足を運んでいる。いや、連行されていると言った方が正しいだろうか。  浅黄に被害はなく、中途半端に眠りを妨げられた所為で身体が怠いので、さっさと帰って寝たいというのが浅黄の本音だった。恐れられていたからあんな無防備な場所で寝ていられたのだと青柳には散々怒られ、赤羽からは例のゴールドのカードキーを持たせられたままだ。  減らされていた睡眠時間を補うように寝ていたのだとしても、こんなに起きないままだったことはなかった。少しの物音でも目を覚ましてしまう。それが気を許している青柳と赤羽であっても、だ。 「……まだ帰ってきてないのか」  時計を見ると九時を指している。もうとっくに帰ってきて、夕飯を食べ終えて、風呂に入っている頃合いだ。今日は遅くなるとは言っていなかった。急用が出来た、と考えるのが妥当だろう。 「腹減った……」  本当に何かあったのならどちらかが連絡を寄越すだろうと、まずはぐうぐうと鳴る腹を宥めることにした。料理が一切出来ない浅黄でも空腹を満たせるように、赤羽が買い置きしてくれている冷凍食品を漁る。レンジの使い方も、赤羽に教えてもらった。  とにかく量があるものなら何でも良かったので、炒飯を一袋まるごとばらばらと皿に出し、ラップをかけてレンジに放り込んだ。オレンジ色に照らされる炒飯を特に理由もなく眺める。  ピーッという音と共に、玄関の方でバタバタと騒がしい物音が聞こえた。 「まだ飯食ってなかったのかよ」 「さっき起きたとこなんだよ」  ネクタイを雑に片手で緩めながら、この部屋の主は驚いた顔をした。もう片方の手で靴下を脱ごうとしていたところに考えもしなかったことを言われ、驚きのあまり危うくバランスを崩すところだったのをギリギリ耐えた。 「ぐっすり……浅黄が?」 「うるさいのがいなかったからかもしれないな」 「それは俺のことを言ってんのか?」 「自覚があるなら」  不満げな表情で赤羽が浅黄を睨んでいるが、浅黄はレンジから取り出した炒飯のおいしそうな匂いに夢中になっている。以前のように、お腹を空かせたまま赤羽か青柳を待っていることがなくなったのは喜ばしいことなのだが。 「そういや、何でこんなに遅くなったんだ?」  もぐもぐと炒飯を口に運びながら赤羽に問う。今まで浅黄が赤羽の部屋にいる時、連絡も無しにここまで帰りが遅くなることはなかったので少し気になるのだ。 「……理事長に直談判しに行ってたんだよ」 「転入生のことか?」 「それもある、あと生徒会の解散も頼んだんだ」 「……で、どうなったんだよ」 「転入生は理事長の代理が不正入学させてたから、停学どころか退学処分だ。生徒会の解散は認めてもらえなかった」  浅黄は顔色一つ変えることなく、赤羽の話を聞いていた。何か引っかかる感じがしたのだが、それが何に対してなのかが分からず、赤羽はもやもやとしたまま風呂に向かった。 ――その後ろで何やら思案する浅黄の姿には気付かないまま。 *****  あれから数日後、いつものように生徒会室へ向かった赤羽は、生徒会室の扉を開けて固まった。いないはずの役員達が全員揃って仕事をしているのだ。それが当たり前のことなのに、不気味で仕方なかった。 「なんでここにいるんだお前ら」  言いたいことは山ほどあるのに、まず口から零れ出たのは純粋な疑問だった。 「理事長に呼び出されて、航大……転入生が不正入学をしていたことや、それで退学になることを聞きました」 「その時に、『私が少し離れていた間に、どうしてこんなに荒れているの?』って聞かれて怖くなって」  役員達は知らなかったのだ。仕事で海外に行っていた理事長が帰って来ていたことに。仕事をしていなかったのだから気付くことも出来なかっただろう。  来週の月曜日に、その旨を全校生徒に知らせることになっていた。理事長に反対されてでも、その場で生徒会の解散を告げる気で赤羽は準備を進めていた。それを理事長に見抜かれていたのだろうか。  何を言っても聞かなかった役員達は、自分が間違っていたと謝罪の言葉を口にしている。何事だ、何なんだ、何が起こっているのか。一体何をしたんだ理事長は。  唯一、分かることは、転入生が来る前の学園に戻ったということだけだった。 「ってことで、急に暇になった」 「そりゃ俺だってそうだ。問題児がいなくなったんだ、仕事が一気に減った」  風紀室に来てみれば、同じく空いた時間を持て余している青柳がいた。青柳も突然理事長が動いたことに疑問を持っているようだった。  しかし、本人に訊いてみてもはぐらかされるだけで、何も答えてはくれなかった。曰く、『私の口から述べるべきではない』とのことだったが、そうなると誰かが理事長に話を通していたということになる。  理事長室に入れるのは限られた人間のみ。ただ、その誰もが理事長に今回の件を申請するとは思えない。ましてや理事長がそれに協力する、とも考えられないのだ。  考えれば考えるほど謎が深まっていき、赤羽は考えることを放棄した。  最初は青柳が裏で企てていたのかと疑っていたのだが、青柳は仕事をしない役員達を毛嫌いしていたのだ。青柳には役員達を庇うメリットがない。 「そういや、前は誘いを断って悪かったな」  じっと青柳を見ながら考え込んでいた赤羽の視線に気付いた青柳が、にやりと笑みを浮かべて赤羽を見た。その言葉に含まれる意味を理解して、赤羽は言葉を返す。 「まぁ、おかげで随分と楽しめたし前のことは水に流してやるよ」  青柳がより一層にこにことした笑みを浮かべ、周りで必死に空気と一体化していた風紀委員達が小さく悲鳴を上げた。外野が恐怖のあまり目を逸らしたその隙に、青柳は不要な紙の端に『上、8』とだけ書いて書類と共に赤羽に押し付けた。 「生徒会長がサボりに来てるって言いふらすぞ」 「それだと俺の相手をしてたお前もサボりだぞ」 「独り言だろ?」 「独り言に返事すんなよ」  呆れた様子で風紀室を出て行った赤羽の姿を見送り、風紀委員達はほっと胸を撫で下ろした。別にそう見せかけただけで、本気で怒った訳ではない。赤羽ががっついたことに関しては少し根に持っているが。  赤羽の部屋には浅黄も居る。久しぶりに三人でするのもいいだろう。楽しみがあると、自然と作業ペースも上がる。いつもより早くデスクワークを終えた青柳は、後を他の委員達に任せて風紀室を出た。  呼び鈴を鳴らして出てきた赤羽は、既に欲に濡れた目をしていた。指定した時間よりも早く来たというのに、もう二人で始めているらしい。 「仲間外れはよくねぇな」 「準備してただけだ、お前もやってやろうか?」 「いらねぇよ」  目をスッと細めて笑みを浮かべた赤羽は、色気を最大限に振り撒いている。よくもまぁ、この学園で襲われないものだとある種感動さえした。  それにいくら役員しかいないフロアだからとはいえ、バスローブを素肌に羽織っただけの姿でドアを開けるなど、かなり無防備すぎやしないだろうか。 「……ベッドに行くんだろ?」  とりあえず部屋の中に入り込み、青柳はなかなか動こうとしない赤羽に首を傾げた。 「あー……わり、ちょっと……」  ドアを閉め、より一層静かになったところで青柳は気付いた。機械音、それに赤羽の息が上がっていることも。 「この間渡した遠隔操作出来るやつか」 「う、あ……あおや、いま、むり…!」 「玩具銜え込んだまま出るなよ……まったく」  赤羽の膝裏を抱えてそのまま横抱きにして、寝室にずかずかと歩いていく。歩く度に艶のある声を漏らす赤羽に、青柳は頭を抱えたくなった。  しっとりと汗をかいて濡れているさらさらの髪も、ほんのりと赤く染まった弾力のある肌も、甘く低い声も、何もかもがエロい。赤羽は普段から色気が駄々漏れで、そのままさらに色気を足したような不健全なエロさなのだ。  しかし、浅黄も赤羽とは違った方向でエロいのだ。普段は性的なイメージなど全く無い。それなのに、一度理性を崩してやれば吃驚するほど引き込まれる。イメージのギャップがあるだけ、その破壊力は凄まじいものなのだ。  その二人が先に遊んでいたのだ。もっと早く来るべきだったと青柳は後悔していた。  しかし、後悔していても終わってしまったことは仕方がない。これからを楽しめばいいだけのことだ。  寝室に入り、浅黄の横に赤羽を下ろした。ベッドに横たわっている浅黄は、リモコンを片手に身体を震わせている。 「ネコのじゃれあいだな」  浅黄の手からリモコンを没収し、赤羽を自分の脚の間へと誘導する。赤羽と浅黄のアナルに埋まっていた玩具を焦らすようにゆっくりと引き抜いてやれば、それだけで二人分の嬌声が堪えきれないといった様子で上がり始める。  抜き取った玩具をベッドの隅に放り投げ、青柳は服をすべて脱いだ。 「浅黄は赤羽の後ろな、赤羽はこっち」 「やっぱりこの前のことまだ引きずってんだろ」 「何のことかさっぱり分からねぇな」  とぼける青柳に吠えかかろうとしたが、浅黄がずぶずぶと陰茎を赤羽の中に挿入し始め、情けない上擦った声が漏れた。目の前には青柳の立派な性器が、まだ萎えたままの状態で曝け出されている。  後ろに退くことも、前に逃げることも出来ない。 「ふ、ぅ…んぐ……んッ……」  だらりと垂れ下がっている陰茎を、舌で掬い上げるように根元から先へと舐めてぱくりと咥えた。 「ん、んむ…っく……」 「赤羽もうイきそうなのか?」 「んんん、ふ…んッ」 「顔こっちな、イってぐずぐずになってる顔見ててやる」  口の中からまだ半勃ちの性器が出て行く。代わりに上体を持ち上げられて、座っている浅黄の上に下ろされた。さらに深く入り込む浅黄の陰茎に目を見開いて、赤羽はいやいやと首を振り乱している。  青柳は赤羽の顔に片手を添えて、正面に固定した。 「ほら、イけよ」 「っ、あ、や…ぁあッ」  体内で浅黄のモノが脈動しているのを感じながら、赤羽も触られていない性器からびゅる、びゅると欲望を吐き出した。ずるりと萎えた陰茎が引き抜かれる感覚にもぶるりと身を震わせ、赤羽は青柳にしがみついたまま荒い息を繰り返している。  切なげに寄せられた眉も、過ぎた快感に涙が溢れ出している目元も、人の上に立って統率している赤羽が人に組み敷かれて啼いている様も、どれもが青柳を興奮させる。  赤羽の背後で息を整えている浅黄も普段の表情の無さとは打って変わって、白い肌がほんのりと赤く色付き、意志の強そうな切れ長の目も快楽にとろりと溶けている。  赤羽をひっくり返して四つん這いにし、ヒクヒクと収縮しているアナルへと陰茎を押し当てる。右手でちゅくちゅくと赤羽の陰茎を扱いて芯を持たせると、青柳は浅黄を呼んだ。 「浅黄、今度は前を可愛がってやれよ」  赤羽の両脇を抱えて再び持ち上げて、浅黄を誘導する。何をされるのか理解した赤羽がバタバタと暴れ始めたが、力の入っていない状態での抵抗は無に等しかった。  先程まで玩具を銜え込まされていた浅黄の後孔は、容易に赤羽の性器を根元まで呑み込んでいった。 「ひ、ぁ…あ……!」 「ん、ぁ、…ふ…ぅ……ッ」  息を乱す二人を見て、青柳は思わず舌なめずりをした。赤羽を抱えていた手をゆっくりと赤羽の腰に移動させて、大きく前後に腰を振る。浅黄に覆い被さるような体勢で間に挟まれている赤羽は、青柳の性器が律動する度に後ろだけではなく前も刺激されて、次々と溢れる嬌声を抑える余裕までも奪われた。  苦しいのか、気持ち良いのか、分からなくなるほどのチカチカとする強烈な快感が赤羽を容赦なく襲う。  浅黄もいつもとは違って不規則に突き上げられ、自分のペースを乱されていた。赤羽が刺激から逃れようと腰を引く瞬間を狙って中を穿つ青柳の所為で、いきなりまた奥へと赤羽の熱が突き入れられ、浅黄は堪らず声を上げた。  それに加えて、ただ揺すられるがままだった赤羽が、先程の仕返しだと言わんばかりに、律動に合わせて揺れている浅黄の陰茎に手を這わせてきた。 「ぅあッ、あ、やめ」 「やられっぱなし、は…ッむかつくんだよ」 「あ、んんっ!」  精液と大量の先走りで十分に濡れている浅黄の陰茎を擦る。その度にくちゅくちゅと粘着質な水音が混じる。先の方を重点的に狙ってぐりぐりと捏ね回すように擦ると、浅黄の中がキュウと締まった。  ラストスパートをかけるように青柳が本格的に激しく腰を打ち付ける度に、二人分の欲に濡れた声が部屋に響き渡る。 「あ、ぁあッもイく…、イ…ぁあああっ!」 「ん、んんっふ、ぁ、や、ぁあッ」 「くッ……!」  三人ほぼ同時に絶頂を迎え、三人分の乱れた呼吸音と精液の独特の臭いが空間を満たしている。  青柳が抜かずにこのままもう一度始めようとしたところで、急に視界がぐるりと回った。 「うぉッ!」  柔らかいベッドに埋もれるように天井を見上げた青柳の後孔に、冷たいままのローションがぶちまけられた。その冷たさに引き攣った声を漏らした青柳に構うことなく、つぷりと指が入れられ青柳は我に返った。 「おい、やめろ」 「お前だけ楽しそうに腰振ってんじゃねぇよ」 「くそ、指抜け! 浅黄も何で俺を押さえつけてんだよ」 「赤羽は青柳のこと抱いたのに、俺はダメなのかよ」 「うっ……あれは、不可抗力で……」  浅黄の拗ねた表情に青柳は弱い。それを分かっていて浅黄もやってくるのだから質が悪い。このまま流されてなるものかと足掻いても、二人で押さえ込まれては、さすがに腕っぷしの良い青柳であっても身動きひとつ取れなかった。  ぞわぞわとした感覚に鳥肌が立つ。丁寧に解されている気遣いはありがたいとはいえ、そもそも尻の穴に指を出し入れするのを止めてほしい。  しかし、青柳の願いも虚しく指は増やされ、着実に受け入れる体勢を整えられていっている。 「青柳の弱いところはー、この辺だったよなー?」  鼻唄でも歌い出しそうな雰囲気で、赤羽は楽しそうに青柳の反応を探っている。二人が望む反応をしてやるものかと、最後の意地で唇をぐっと噛み締める。  それを目敏く見つけた浅黄が、指で青柳の口を抉じ開けて、そのまま上顎を指の腹で優しく擦った。青柳の弱点の一つであるその場所を、執拗に触れるか触れないか微妙な力加減で刺激する。 「ぁ、ふ…やめ…」 「青柳ほんと弱いよな、ここ」 「やめ、ふ…ぁ、はなふぇっ…!」  翻弄されている珍しい青柳の姿に、浅黄は誰が止めてやるものかと青柳への愛撫を続けた。赤羽の方を見れば、三本の指が青柳のアナルに入っていた。  探るようにバラバラに動かされていた指が、ぴたりと動きを止めた。青柳が逃げようとする前に、赤羽はその場所をくるりと撫でた。 「ッあ、あ!」 「やっぱり青柳もケツの才能あるって」 「ふッぅあ、くっ……!」  浅黄は指を抜いて、じっと喘ぐ青柳を見た。浅黄が指を咥えさせていた所為で、開いたままだった口からは唾液が溢れ、ハスキーな声はより色気を増している。  一言で言ってしまえば、めちゃくちゃエロい。湧き上がる征服欲に、今なら赤羽ががっついてしまったのは仕方のないことだったと浅黄は思う。  どうして今まで、青柳を抱こうと考えもしなかったのか。それを後悔するほどに、浅黄は目の前で乱れる青柳に興奮していた。  赤羽が完全に勃起している性器を、十分に慣らして拡げた青柳のアナルへと先端を擦りつけた。時折、中に入りそうになる度に腰が無意識に揺れるのを、青柳は何とか抑えこもうと力を入れる。 「そんなに力んでると痛いぞ」 「うる、せ……だったらやめろ」 「やめるって選択肢はないから諦めろ青柳」  今は使われることのない、立派な青柳の陰茎に赤羽は指を絡めた。力が抜けた瞬間を見計らって、一気に中に入り込んだ。 「ぐ、ぁ……は、あ、…ッ」 「くっ……まだキツイな」 「抜けッ……く、ぁ…!」  蹴り飛ばそうと足を動かす青柳を大人しくさせる為に、抜ける寸前まで陰茎を引き抜き、前立腺を狙って腰を打ち付けた。 短く上擦った嬌声を漏らして崩れ落ちた青柳に、追い打ちをかけるように腰を振る。 「んぁ、ふ、う、…く、ぅ……!」 「なぁ、浅黄」  雄の顔をして青柳の身体を貪っている赤羽に突然名前を呼ばれ、浅黄はびくりと肩を揺らした。 「なんだよ」 「えろいだろ、こいつ」  そう言って、にやりと口元を歪めた赤羽の言う通り、思っていた以上に青柳の痴態に煽られている。が、赤羽もエロいという言葉に、十分すぎるくらい当て嵌まるのだ。 「どっちも、だろ」  浅黄がそう答えれば、赤羽は満足そうに笑みを深めた。 「そうだな、俺も、浅黄のことえろいって思ってる」  赤羽と目が合った青柳は、まるで発情した獣のようだと思った。熱い、体も頭もなにもかも。 「なんつー顔、してんだよ」 「青柳がえろいから」 「しらねーよ、そんなもん…あっ、ぐ……!」 「うッ…」  迸りを受け止めて、青柳はぐったりとベッドに身を委ねた。赤羽を蹴り飛ばし、強制的に中から追い出す。赤羽がなにやら文句を言っているが、全部無視して青柳は赤羽の腰をがっしりと掴んだ。  赤羽はサッと顔を青褪めさせて、青柳を見上げた。 「……抱き潰してやるから覚悟しろよお前ら」  地を這うようなドスの効いた声で宣戦布告され、赤羽と浅黄はやり過ぎたと表情を引き攣らせた。  役割を奪い合って、快楽を貪り続けて一時間ほど過ぎた頃。浅黄を上に乗せて、赤羽が下から突き上げていると、浅黄が急に焦り始めた。 「や、やめろ、でる、でる……!」 「出せばいいだろ、散々ぶちまけてんだから」 「ちが、そっちじゃない…もれる、トイレ……」  前を握りしめ、必死に浅黄が耐えていたのは、二人が考えていたものとは違った。驚いた表情を見せたのも束の間のことで、赤羽と青柳は顔を見合わせ、にやりと悪い笑みを浮かべた。 「ここですればいいだろ?」 「は……? 汚れるだろ、いやだ、はなせ」  とんでもないことを言い出した青柳に、浅黄は目を大きく見開いた。中に埋められている赤羽のモノを抜いてトイレに向かおうとした浅黄を、赤羽が上体を起こして抱え込み阻止する。 「もう汚れてるし、どうせ新しいのに替えるんだから」  そう言って浅黄の中から陰茎を抜かずにぐるりと反転させ、足を大きく開かせた。その刺激にびくりと身体を跳ねさせる浅黄の陰茎を、足の間に入り込んだ青柳が絶頂に導くように強く扱く。 「あ、ぁああッ…ひ、ぁ……や、ぁ!」  パタパタ、とほとんど薄くなった少量の精液を吐き出した浅黄は、一層強く込み上げてきた尿意にぶるりと身体を震わせた。  しょろ、しょろ、と黄色い液体が萎えかけている陰茎の先から控え目に溢れ出す。鼻につくようなアンモニアの臭いが、生温かい空気と共に拡がる。 「あ、あ、ぁ……見んな、いやだ……ッ」  否定する言葉とは裏腹に、押し寄せる解放感に抗えず漏れ出す量は増えていく。手で押さえようとする浅黄の腕を、背後にいる赤羽が拘束した。脚は青柳が間に座っているので閉じることも出来ない。 「ん、くそッ……いやだ、ちがう……」  勢いは収まることなく、白いシーツに水溜りを作っていく。ぎゅ、と目を瞑る。目の前の惨状を、見ていられなかった。それなのに、背後の男は浅黄を逃がしてはくれないようだ。 「目を逸らすなよ浅黄」  悪魔の囁き――例えるならそれがぴったり当てはまる。決して聞いてはいけないと、理解しているのに。  一度は閉じた目を、浅黄は再び開いて現実を目の当たりにした。じわり、と浮かんだ涙がぽろぽろと零れ落ちる。 「あ、……あ、ぁ、あ」 「汚しちまったな、浅黄」  ぽんぽんと幼い子どもをあやす様に青柳に頭を撫でられ、浅黄は眠るように気を失った。  汚れた身体を綺麗に洗い流し、目を覚ました浅黄に赤羽は水を渡した。色々なもので汚れたシーツとマットレスカバーを洗濯機に放り込み、中綿をバスタブに浸けて赤羽が洗っている間に、青柳は新しいシーツとマットレスをセッティングしていた。  セットし終えたベッドに腰掛けながら、青柳はふと隣に座っている浅黄を見た。学園では一匹狼と呼ばれ、怖がられている男。売られた喧嘩を買って負けているところを見たことがない。釣り上がった眉と目、それと表情があまり変わらず無愛想なイメージも手伝って『一匹狼』という存在が創り出された。  浅黄与一という男が、朝に弱くて面倒臭がりで、しかしどこまでも友達を大事にしてよく笑うのだということを、この学園で知っているのは自分と赤羽の二人だけなのだ。好きな物も嫌いな物も、全部知っている。  あの転入生にも一切靡くことはなかった。優越感、それが青柳を満たしていた。  無造作に後ろに撫でつけられている前髪は今は下ろされていて、意志の強そうな眉が隠れている所為かいつもの表情より柔らかい印象を与える。  少し、興味が湧いたのだ。声を抑えようと噛む所為で、僅かに荒れている薄い唇に噛み付いたら、浅黄はどんな顔をするのか。よく考えてみれば、キスどころか甘い睦言すら言った覚えがない。 「んぅ、なっ……ま、て…!」 「ん? うおっ」  浅黄に突き飛ばされて体勢を崩した青柳がベッドの下に落ちる。その大きな物音に、何事かと洗濯をしていた赤羽が寝室に戻って来た。 「クソッ、ふざけたことすんじゃねぇよ!」  浅黄が突然声を荒げたこと、明らかに青柳がベッドの下に落ちた体勢でいること。その二点から、青柳が浅黄に対して何か失態を犯したことは明白だ。 「どうしたんだよ浅黄」 「恋人ごっこがやりてぇなら俺を巻き込むな」  浅黄の口から発せられたのは、明確な拒絶だった。くしゃくしゃになっていた服を身に付け、浅黄は黙ったまま部屋から出て行った。

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