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Reorganization of love

 青柳は困惑していた。唇が触れるだけのキスの一つや二つぐらい、別にしたところで何とも思っていなかった。  薄く開いた口から覗く赤い舌に誘われるまま、浅黄に食らいついた。今思えば、それまで浅黄とはキスをしたことが一度もなかった。初めてだった。  青柳には、そんなにキスに対する意識がなかった。それは赤羽もそうだった。たかがキスの一つや二つ、とっくにしているものだと思っていた。していなかったとしても、あの浅黄がこだわりを持っているとは思いもしなかった。  だから、浅黄がキス一つであんなに動揺するとは想定していなかったのだ。 「あの浅黄がなぁ……」  考え込む青柳の向かいに腰を下ろして、赤羽はぐいっとコーヒーを飲み干した。 「そもそも、俺らの関係を気にしたこともなかったけど、考えてみりゃ、あいつの言う通りよく分からねぇな」 「最初は一方的に巻き込んだ感じだったしな。俺らも分からねぇんだ、あいつの方が尚更分からねぇだろうな」 「青柳も、浅黄も、何考えてんのか分かりにくいんだよ」 「お前はすぐ顔に出るもんな、馬鹿だから」 「青柳も俺を馬鹿呼ばわりすんのかよ」  ムッ、と眉間に皺を寄せた赤羽を特に気にする素振りも見せず、青柳は難しい顔をしたまま考え込んでいる。そんなに難しく考えるものなのか。赤羽には理解しにくい部分だった。  このままだんまりを続けていても埒が明かない。青柳が何も話す気がないのなら、自分が何とかするしかない、と赤羽は口を開いた。 「深刻に考えすぎなんだよ、お前らは」 「考えざるを得ないだろ……あんな浅黄の反応見りゃ……」  怒鳴られたこともそうだが、青柳を最も悩ませているのは、くしゃりと歪められた顔だった。もう見ることがなくなっていた、浅黄が感情を露わにした顔だ。 「あんな顔したの、中学入る前以来だろ?」 「浅黄だけここに入ることになった時か」 「そんで、俺らは必死に親を説得してさ」 「『親友だからずっと一緒だろ』とか言ってたな。今じゃセフレみたいな繋がりになってるけど」  赤羽が余計な事を言ったおかげで本題を思い出す。懐かしい思い出話に花を咲かせている場合ではないのだ。  今まで自分達が浅黄の『初めて』を奪ってきた。それは逆も同じで、自分達の『初めて』も浅黄と共有していた。  いつだって三人一緒で、あの時に浅黄にしたキスも青柳にとって『初めて』だった。 「なぁ、赤羽」 「なんだよ」 「俺達の関係に名前を付けたら、何か変わるのか?」 「どんな名前を付けるかにもよるんじゃねぇの?」  友達はもうとっくに通り越している。親友よりももっと深い。セックスをしているのだから、親友なんて枠には収まり切らない。なら、セフレだろうか――。 「俺は浅黄のことも、青柳のことも好きだ」 「その『好き』はどの意味で?」 「友達としても好き、他の人とセックスしてたら嫌だから独占したい意味でも好き」 「……はは、なんだよその好きの基準は」  非常にざっくりとした赤羽のライン引きは、馬鹿げていると思うと同時にストンと収まる言葉だった。この三人の輪の中に、他人が入ってくるのは嫌だと青柳も感じていた。  一対一の関係ではない、世の中から見れば可笑しな関係だろうと、青柳も浅黄のことが好きで、赤羽のことも好きなのだ。明確に形にしたことはない。好きだと口にしたことも、恋人らしいこともしたことがない。ただセックスしているだけだった。 身体だけの関係にしては情があった。だから、浅黄がセフレとは言わず『腐れ縁』と言ったのも、分かる。初めてキスをして、浅黄が『恋人ごっこ』だと言ったのも、その通りだ。 圧倒的に、自分達には言葉が足りていない。 「赤羽」 「なんだよ」 「好きだ、赤羽のことも浅黄のことも」 「おう、俺もだ」 「浅黄が帰ってきたら、話し合おう」 「そうだな」  おやすみ、と青柳が目を閉じるのを見て、赤羽も青柳に背を向けて眠りに就いた。  しかし、この後一週間、浅黄は姿を現さなかった。

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