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Do not say you love me

 思わず逃げ出すように赤羽の部屋から飛び出し、自室に戻って来た。転入生が来てからしばらくの間は、たまに転入生がいない隙を見計らって着替えを取りに戻るだけで、ほとんど使っていなかった部屋だ。  必要最低限の家具と物しか置かれていないこの部屋は、他人から見れば酷く殺風景に見えるだろう。モノクロで統一されていることも、寂しい要素になってしまっている。  赤羽の部屋に居ることがほとんどで、あのごちゃごちゃとした空間に慣れてしまった所為か、浅黄もこの部屋の風景はどうかと思うようになった。  このままここに居てもよかったのだが、落ち着くまでは二人に会いたくなかった。間違いなく温室とこの部屋に二人は捜しに来るだろう。 「……仕方ない、か」  本当はあまり頼りたくはないのだが、もう彼を頼るしか居場所がない。なにより確実に見つからないという安心感がある。  赤羽が持たせたゴールドのカードキーとは別にもう一枚、浅黄はゴールドのカードキーを持っている。赤羽が渡してきた物は、赤羽の部屋にしか入れない複製品であるのに対して、浅黄がもともと持っていた物はすべての部屋に入ることが出来る。所謂、マスターキーの性能を備えている。  ずっと使うつもりはなかったのだ。それが、今月だけで既に二度も使ってしまっている。その二回は大事な二人を守る為にやむを得ず、なので会いに行きたくて行った訳ではない。  向こうはどんな理由であれ、浅黄が来たことに煩いくらいに喜んでいたが。浅黄からの電話一本で、海外での仕事を一気に片付けてここに戻ってくる男だ。浅黄が匿えと言えば、匿ってくれるだろう。  誰もいない、静かで真っ暗な廊下を歩く。エレベーターの最上階――生徒会室のある階の、さらに一つ上の階――のボタンを押す。  ドアが開き、外に出る。出てすぐに、大きな扉が空間を遮断している。 「……」  ドアをノックしようとして、躊躇い、止めて手を下ろす。こんな夜中に起きている訳がない。起こしてしまうのも相手に悪いので、そっとロックを解除して忍び込み、ソファーにごろりと身体を預けた。  起きてから事情を説明しようと、浅黄は下りてきた瞼をそのままにすーすーと寝息を立て始めた。 「ん……?」 「おや、すぐに起きてしまうんだね」 「近い」 「おはようのチューをしようとしたんだが逃げられてしまったか、いや残念だ」  迫りくる顔をすぱーんと手で押し退けて、浅黄は男から距離を取った。黙っていれば物腰の柔らかそうな品の良い壮年の男性であるが、浅黄に対する言動がすべてを台無しにしている。 「ところで何故与一くんがここに?」 「しばらく匿ってくれ」 「……なるほど、お友達と喧嘩でもしたのかな?」 「……」  『考えていることが分かりにくい』と、よく二人には文句を言われてきたのに、この人には昔から何でも見透かされている。歳を重ねた功だと言っていたが、そんなものではない確信を得られる何かがあるのだろう。 「ちゃんと言ってみないと分からないことはたくさんあるんじゃないかな?」 「それは、分かってる」 「落ち着いたら一度正直に思っていることを言ってみればいいさ。そんなに簡単に離れてしまうような子達じゃないだろう」 「……どこまで知ってんだあんたは」  にっこりと笑みを浮かべて逃げた相手を追う気にもなれず、再びソファーに寝転がった。

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