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第5話―翠(アキラ)―

卯一郎さんが公共料金の支払いをする姿を想像して、僕はなかなか笑いが止まらなかった。そんな僕を少し呆れたような顔で、でも笑ってくれてる卯一郎さん。尊大な態度だけど、心根が優しい人なんだって、ホントに心がポカポカと暖かくなる。 しばらく、笑い転げて気が済んで、卯一郎さんがたくさん買ってきてくれた食材を、電気が通って動き始めた冷蔵庫に詰め込んだ。電気が止められる前から調味料以外何も入っていなかった冷蔵庫に食材が溢れた。 「こんなにたくさん・・・っていうか! この肉!!」 「なんだ? 嫌いだったか?」 「ま、松阪・・・牛・・・と書いてあるような・・・?」 「この肉は美味いから買った。以前、ホテルの夕食でその牛肉を食べた」 「ま、マジっすか・・・」 「翠は嫌いなのか?」 「嫌いな訳ないです! あ、いや、食べた事はありませんけど、嫌いな人がいるはずない!だって松阪牛ですよ!? 嫌いなんて言ったらバチが当たります!」 「?? そう・・・か?」 「そうです!」 ついつい両手を握りしめて松阪牛の凄さを語ってしまった。 いや、だって、ホント、食べたことないよ、こんな高い肉。そして、やっぱり気になってしまった・・・ 「卯一郎さん・・・あの・・・お金なんですが」 「? なんだ?」 「こんな立派な食材のお金・・・僕・・・半分も払えないですが」 「これは、俺が食いたいし、翠に栄養のある物を食べさせたいと思って俺が勝手に買ったんだ。気にしなくて良い」 はい、そうですか、どうも。 って貰える額じゃないよ~! 「で、でも、これはさすがに・・・」 「気にするなと言ってる」 「・・・・すみません」 「? なんで謝るんだ? 翠は謝ってばっかりだな」 「そうですか?」 「そうだ」 「でも、こんなに美味しそうなお肉まで買ってもらって、なんだか申し訳ないというか・・・」 「お前を惨めな気持ちにさせる為に買ってきたわけではないが・・・」 わあああ〜!卯一郎さんがしょんぼりし始めてる!?全然合わない!かわいいけど!あ、いや、違うって。 「あ、いや、惨めって事はないですよ!?」 「なら、謝るな」 「・・・・は、はい」 そうか、そうだよな。せっかく買ってきてくれたんだし、変に頭を下げるのも、良くないよな・・・こういう場合は・・・ 「ありがとうございます。卯一郎さん」 「うん、それがいいな」 あ、正解だったみたいだ。よかった。そして笑顔が素敵です、卯一郎さん。輝き放ってるダイアモンドのようで眩しいです。 「そうやって笑ってろ。翠」 「え? 笑ってましたか?」 もしや、卯一郎さんの笑顔につい二ヤついてた? 恥ずかしいやつ! 「ああ」 「そ、そうでしたか・・・お肉があまりにも美味しそうだから、ついニヤケてしまいます」 「そんなにこの松阪牛はすごいのか?」 「そりゃ、もう! 牛肉界のチャンピオンですよ! キングオブミートですよ!」 「ふーん・・・そうなのか・・・」 ああ、さすが貴族さま。松阪牛の価値がきっと百グラム九十八円の世界なんだ・・・ 「美味しく料理しないと・・・でも・・・」 「なんだ?」 「僕、料理、出来ませんが」 「・・・そうか。俺もだ」 「・・・困りましたね」 「やればできるだろ? 何事も、経験だ」 「そうですね」 焼く、という行為は分かる。ただ味付け、という行為はよく分からない。なので、卯一郎さんのスマートフォンでいろいろと調べる。ああ、ありがとう! インターネット! ありがとう!グーグル先生! ただ、卯一郎さんのスマホが日本語対応していないという致命的な使い辛さ! 卯一郎さんに翻訳してもらいつつ、僕も脳みそにあるありったけの英単語を引っ張り出し、少しずつ解読していく。 「ステーキは焼くだけですが・・・この人参のグラッセ? というのは・・・なかなか素人には難しいですかね・・・僕、人参の甘く似たやつ、けっこう好きなんですけど・・・そうか、グラッセって言うんだ。初めて知った」 「とりあえず、作ってみればいいだろ」 「ですね、やってみましょう」 肉は冷蔵庫から出して、常温にする為、キッチンのテーブルで暫し、待機。そして、僕はあまり触った事のない包丁でにんじんをレシピ通りに切って・・・ 「皮って・・・切ってから剥くんですかね?」 「・・・書いてないぞ」 「切ってからだと面倒ですし、先に皮を剥きましょう」 「・・・・・俺が言うのもなんだが、手付きが怖いぞ、翠」 「・・・実際怖いんです・・・でも、ゆっくりやれば大丈夫」 「だ、大丈夫か・・・?」 「だいじょう・・・いっ!」 「あ、翠!!」

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