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第32話ー翠(アキラ)ー

僕らは朝食後、少し食休みをしてからロッジの周りに積もった雪をかき始めた。あー、だいぶ積もってるな~・・・これは三人でやっても今日中には終わらないな・・・。 僕たち三人は無言で雪をかいて、ロッジの入り口から庭を通り、外へ向かって道をひたすら作っていった。 「うーん、買い物は難しいかな・・・」 僕は雪かきの手を一旦休めて、街へと続く道だったところを見ながら呟いた。こんなに積もったら歩きでも大変だ。雪がなくても歩きだと普通でも街まで行くのに一時間ちょっとかかる。 それが雪の中だったら・・・行き倒れてしまいそう。しかし・・・ 「雪が溶けるまで待っていたら、食糧がなくなるな。暖炉の薪はそこらの木を使えばいいだろう?」 そうなのだ。卯一郎さんが食糧をたくさん買ってきてくれものの、山城さんが増えたし、そもそもそんなに量を買ってきてはなかった。こんなに雪が降るなんて誰も思わなかったし。薪もずいぶん前に貯蔵しておいた分が、そろそろなくなりそうだった。 「うーん、そこらの木は火が付かないんですよね・・・」 「薪は切ってなかったのか?」 「すいません。忙しかったので・・・」 「ああ・・・」 普段なら冬に入る前に薪を切って溜めておいたりするんだけど、両親のことで忙しかったし、なにより気力がわかなかったから、僕は冬支度なんてほとんどやってなかったんだよね・・・。 「・・・・仕方ないな・・・」 卯一郎さんが溜息交じりにそう呟くと、スマートフォンを出して、どこかへメールをしているようだった。どこへメールしてるのかな? 市役所? 雪かきをお願いしてるのかな? でもここはこのロッジ以外他に民家がないから、除雪も後回しになりそう・・・山の下はどのぐらい積もってるのかな? この山ほどではないとは思うけど・・・。 「寒いから、ぼちぼち中入ろーぜ・・・」 山城さんは手袋の上から手をさすり、息を吹きかけながら僕らに提案した。確かにみんな雪かきで汗ははきつつも、手足の先が冷たくなっているはずだろう。僕も指先がジンジンとして、このままだとあかぎれになりそう。それは困る。バイオリンが弾けなくなっちゃう。 「とりあえず、一旦休憩にするか」 「温泉入りましょう。みんな体が冷えてますよね?」 「お、いいねぇ~。翠ちゃん、背中の流しっこしよーぜ!」 「お前は一人で入れ」 「大人三人だったら皆で入れますよ?」 「やったー」 「ぜーったいダメだ!!」 山城さんが喜んだのとほぼ同時に、卯一郎さんが今まで出したことない声のボリュームで僕の提案を否定した。え~? なんでそんなに・・・男同士なんだから別に良いと思うけどな~・・・でも卯一郎さんがそんなに嫌がるなら、無理にみんなで入らなくてもいいけど。 「じゃあ、お二人、お先にどうぞ?」 「・・・・・なぜそうなる・・・」 「ぶっ! うひゃひゃひゃ~!」 卯一郎さんは頭を抱えて眉間に皺寄せちゃうし、山城さんはお腹を抱えて笑いがとまらなくなるし、僕、そんな変な事を言ったかな~? 結局、僕と卯一郎さんが先に一緒に入る事になったんだけど・・・はわ~・・・また卯一郎さんに僕の貧相な裸を見られてしまうのか・・・だけど・・・僕は卯一郎さんの裸が見られるのをコッソリ楽しみに・・・ちょっとだけだ。ほんのちょっとだけ楽しみにしてる。だってあんなに綺麗な体してるんだもん、見たくもなるでしょ? と、僕は内心で誰にする訳でもないのに言い訳を探してひたすらつぶやいていた。 「・・・・二人で入って、変なコトしていつまでも出てこないとかすんなよ~」 「下賤め」 「変な事なんてしません!」 へへへへへ変な事って!? 何言ってんだよ! ぼぼぼっぼぼ僕は別に卯一郎さんの裸が観たくて一緒に入るんじゃなくって、卯一郎さんが・・・卯一郎さん・・・うううう~。 今絶対顔が赤くなってる・・・恥ずかしい・・・別になんでもないはずなのに・・・卯一郎さんの裸が見たいとか・・・ちょっとしか思ってない・・・ちょっとだけ・・・だよ? そんな僕を見ながら、山城さんがニヤニヤいやーな笑い方をし、僕らに手を振ってキッチンへ消えていった。キッチンが好きなのかな? あの人。 「卯一郎さん、着替えを取りに二階へ行きましょうか?」 「そうだな」 僕は気を取り直して、卯一郎さんと、着替えを取りに二階へ上がっていった。

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