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第13話―翠(アキラ)―

「ロープを探してきます」 「頼んだ」 確か一階の奥の物置に、ロープ類がしまってあったはず。僕は急いで物置から何本かのロープを持っていった。父さんは登山が好きだったからたぶんそれ用だろう。細いけれど、かなり丈夫なはずだ。 「卯一郎さん、持ってきました」 「よし。貸せ」 僕は卯一郎さんにロープを渡すと、失神継続中の赤毛の体を縛り始めた。足も太腿までしっかりと。手は後ろ手に固定。華麗に素早く赤毛を縛り上げた卯一郎さん。は~・・・ボーイスカウトってこんなことまで習うんだ。へぇ~。すごーい。 僕が感心しながら卯一郎さんのロープ捌きを見ていると、卯一郎さんは最後の仕上げと言わんばかりに、赤毛をそのまま床に乱暴に転がした。 「お、お見事です、卯一郎さん」 「久しぶりにしては、良く出来た」 得意満面な雪の女王さま。でもホントに器用だ。僕はバイオリンばっかり弾いてて、バイオリン以外はホントにお粗末なぐらい何も特技といえるものがない。まあ、そのバイオリンも特技といえるのか微妙な腕前。 さて、赤毛はとりあえず、これで良いとして・・・問題は一緒にお風呂に入るのか問題だ。どうしようか・・・と、その時、赤毛が呻き声と共に、目が醒めたようだ。 「うう・・・。うお! なんだこれ!」 「目が醒めたか」 「ふざけんな! 解け! このクソ外人!」 「卯一郎さんはクソじゃないですよ! こんな美しい人に良くそんな暴言吐けますね!」 卯一郎さんをクソ外人呼ばわりするなんて! 僕は心の底から怒りが沸いた。なので、ひそかに怯えていたはずの赤毛に怒鳴った。そんな事が出来たのは怯えてはいるけど、とりあえず縛っちゃってるから殴りかかってこないという安心感からだろう。 「は~? 翠ちゃん、これ、立派な犯罪じゃん。いいの? 俺、ココ出たら、警察に言ってこのクソ外人逮捕して貰っちゃうよ?」 「えっと・・・・」 犯罪と聞いて僕は急に心配になってしまった。それに卯一郎さんが逮捕されて、刑務所とか・・・うわー! 絶対無理! 僕も一緒に入れるんだろうか!? いや、そうじゃなくて~! 僕が脳内で軽いパニックを起こしているのに対して、卯一郎さんは冷静で冷徹に赤毛を見下ろして言った。 「ふん! 逮捕されるのはお前だ、山城 数也(やましろ かずや)」 「あ? なんで名前・・・あ、お前! 財布盗ったろ!」 「ふん。お前の財布に用はない。ちゃんと返してやったから安心しろ」 「そうじゃねーよ! とりあえずこれを解けって!」 「翠」 「はい?」 「風呂へ行くぞ」 「あ、はい」 ん? あれ? 「おいおいおい! ちょっと待て!」 「煩いからこれで口を塞ぐか」 卯一郎さんは白いハンカチをどこからか取り出すと二回ぐらい結びを巻き、その結び目を赤毛改め、山城さんの口へ突っ込むとそのまま後頭部でガッチリと結んだ。 「むーーーー!」 「よし、多少耳触りだが、まあ良いだろう。行くぞ、翠」 「あ、はい」 んん? あれ、えっと?  僕は卯一郎さんに何故か肩を抱かれてそのまま風呂場へとエスコートされていった。部屋を出る時、赤毛の山城さんの「むぐーーーーーーー!」という雄叫びを背中で聞きつつ、僕は卯一郎さんに逆らうとか、質問するとかそういう事が一切浮かんでこず、でも頭の中はフル回転で、この先の対処法を考えていた。でも結局、なにも思い浮かばなかった。 「久しぶりに日本の温泉だ・・・」 卯一郎さんが懐かしむ様に発した声に、僕は現実に引き戻された。 いつの間にか脱衣所に来ている。おお・・・どうしようかな・・・ははは・・・・・ って! うおーーー! 卯一郎さんたら恥ずかしげもなくバンバン男らしく脱ぎ始めたああーーー! 何故だか見てはいけない様な気がして、僕は咄嗟に両目を手で覆ってしまった。それに気付いた卯一郎さん。 「翠? 何をしてるんだ?」 「あの、いえ、神々しくて」 「? 翠はたまに意味が分からない事をするな。先に入ってるぞ。早くお前も来い」 ガラガラガラ、と、浴槽の扉が開く音と共に、湯気の暖かさと湿っぽさを感じ、僕は目を覆っていた手をそろそろと、外した。 はわ~!! う、卯一郎さんの全裸・・・後ろ姿だけど・・・なかなかどうして、立派な筋肉です。お尻の形もハッキリは見てないけど、ギリシャの彫刻ですか? ってぐらいみごとなプロポーション。 扉が閉まるまで僕はきっとまた、あの「バカみたいな顔」をして、卯一郎さんの後ろ姿を見送った。 うーん・・・どうしよ~。このままこんな所に突っ立ってたらきっと卯一郎さんのご機嫌が悪くなるだろう。でも、お世辞にも僕の体は良いとは言えない。特に最近は食べるものを切り詰めて節約してたもんだから、結構痩せてしまってズボンもゆるゆるだ。 先程の、ギリシャ彫刻のような体の持ち主に、僕の貧相な体を見られるのは結構恥ずかしいかも。あー、こんなことなら筋トレでもしてれば良かったよ~。 しかし、こんなところで、モジモジしてても仕方ないと思って、僕はもそもそと、服を脱ぎ始めた。脱衣所にある大きな鏡に映る僕の姿は・・・肋骨が浮かび上がって貧相だった。

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