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第14話―翠(アキラ)―

最後の砦(?)こと、トランクスとさよならをして、タオルを手に取り股間を隠してから、僕は・・・浴室へと続く引き戸の前で立ちつくした。ザバーっとお湯で体を流しているであろう音が聞こえてきて、僕は意を決して、引き戸を開けた。浴室は程良く温まって湯気が辺りをうっすらと白くぼやかしている。体を洗う為に、卯一郎さんが体にシャワーを当て鼻歌を歌っていた。僕から見て、丁度右手に立つ卯一郎さんは・・・・きっとギリシャ神話とかに出てきそうな、神様みたいに綺麗だった。 ぼんやりと卯一郎さんを眺めていると、卯一郎さんが僕に気付いて、苦笑いをした。 「翠、また、口が開いてるぞ」 「んぐ! す、すみません」 「そんな所に突っ立ってないで、翠も体を洗ったらどうだ?」 「そ、そうですね・・・それじゃ・・・」 体を洗う為に設けられた場所は、四つあるんだけど、どこに行こうかと一瞬悩んだ。変に間隔を開けてもなんだし、一番右端にいる卯一郎さんの一個開けた場所に腰を下ろした。とりあえず、頭からシャワーを流す。そういうえば、卯一郎さんは椅子に座らないで、立ったままシャワーを浴びてたな・・・それ、他の浴場でやると嫌われますって言った方がいいか・・・ 「卯一郎さん」 「ん?」 「あ、すみません。後でいいです」 「分かった」 卯一郎さんは頭を洗っててシャンプーで髪の毛が泡だってた。しかし・・・本当に綺麗な体だな・・・八頭身はしっかりあって、余分な贅肉は見当たらないし、ウエストも締まってて腹筋もムキムキってじゃない程度に割れてるよ。それから下は・・・・ おおお! あそこの毛もプラチナブロンドだよ! 当たり前だけど! ほほ~・・・・ っていつまで、見てるんだ僕。僕は自分の体を見られるのがイヤなのに、人様の体をジロジロと・・・。ああ、それにしても、ホントに僕の体ってすごく貧相だな・・・ガリガリってワケじゃないけど、正直筋肉らしきものは見当たらず、もちろんお腹に腹筋の割れている物なんかもない。ずっとインドアだった僕に父さんは、一緒に山に登ろうと誘ってくれたけど、三回に二回は断っていた。父さんはいつまで経っても山登りは初心者の様な僕のために、初心者が登るような山を探して誘ってくれたのに、僕ときたら・・・ 「翠?」 「は、はい! 何でしょう? 卯一郎さん?」 「ぼんやりしていたな、どうした?」 「いや・・・なんでもないです」 「・・・・さっき何か言いかけていたな?」 「・・・あ! そうだ!」 僕は先程卯一郎さんに浴場での注意事項を話した。卯一郎さんはそれを聞いて、隅に置いてあった椅子を取りにいき、自分の場所に置くとゆっくりと腰を下ろす。卯一郎さんが腰をおろして気が付いたんだけど、この人、すごく足が長い! 「・・・・座りにくな。この椅子は低すぎる」 「卯一郎さんの足が長すぎるからですね・・・羨ましい・・・」 「? 翠も短くはないだろ? それに、綺麗な体をしてるな。少々痩せすぎだが」 卯一郎さんのコメントと視線に、僕は思わず背中を曲げて、膝と膝の間に隠すように丸まってしまった。こんな貧相な体をマジマジ見ないで欲しいんですが~ 「いや、ぜんぜん、美しくはありません」 「色も白いし、黒髪が良く映えててコントラストが素晴らしいと思う」 「あの、そんなのは普通かと・・・髪を染めてなければ日本人はみんな黒髪ですし」 こんな貧相な体を褒められまくって僕は、恥ずかしくて仕方ない。卯一郎さんをまともに見る事が出来ずに、僕は蛇口からお湯を出して桶に溜めながら、両手に掬って顔をジャブジャブと洗い始める。きっと恥ずかしくって顔が赤くなってるに違いない。 その近くで、卯一郎さんが笑ったような気がした。からかってるとか、面白がってるとかの笑いじゃなくて、暖かい感じの・・・そういう雰囲気。 「翠、先に湯船に浸かってる」 「はい、どうぞ」 卯一郎さんのペタペタという足音を背中で聞きながら、僕はそのまま体を洗いはじめた。シャンプーを頭につけて、ボディソープを手に出すと、適当に泡立てて(ほとんど泡立たないけど)体に擦りつける。そのまま適当に髪も洗うという感じ。 「翠、それで洗えてるのか?」 「ん? いつもこんな感じです。面倒なので」 「・・・・お前は体を洗うのが面倒なのか?」 「まあ、正直言って、風呂は好きではないんです」 「・・・・なんだと・・・」 背中越しだし、僕は髪を洗って下を向いてたので、卯一郎さんが驚きの声を出したのに、僕が驚いて顔を上げて横を振り向くと、卯一郎さんの・・・眉が眉間に寄ってる顔が見えた。 「? どうしました? 卯一郎さん?」 「自分で自分の体を洗うのが面倒・・・か?」 「ん? そうですね・・・できれば勝手に洗うのが終わればいいのになーとは思ったりします」 「・・・・そうか」 「あ、いや、でも、ちゃんと洗いますよ? 汚いのが好きな訳じゃないですから。面倒なだけです」 「わかった」 そういうと、卯一郎さんは浴槽からおもむろに出て、僕の間横に立った。 「えっと・・・?」 「タオルを貸せ。背中を洗ってやろう」 「・・・・へ? いや、え?」 卯一郎さんは手を出して、僕の持っているタオルを寄こせと要求しているが、なぜ今の会話で背中を流してくれる事になったのか良く分からない・・・ 「翠、早くタオルを寄こせ」 「え、あ、はい」 僕は手にしているタオルを卯一郎さんの手の上に乗せた。だってそうしないと、卯一郎さん、何時まで経っても僕の横に立ったままどかなそうだったから。・・・・なんていうか・・・そこに立たれると、座ってる僕の横に、その、あの、卯一郎さんのアレがプランっと・・・いや、そんなに見てません! とっても立派だとは思ったけど、そんなに見てません、すみません卯一郎さん。 僕がまたこっそり赤面している間に、卯一郎さんは僕の後ろに回り、ボディソープをタオルに垂らすと揉みほぐして泡立たせているのが、鏡越しに見える。わざわざちゃんと泡を立たせるという面倒な作業を黙々とやっている卯一郎さんを僕はなんだか不思議な気持ちで見ていた。

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