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第18話―翠(アキラ)―
「・・・・ふーん、オーストリア・・・か」
「翠には・・・」
二人のボソボソとした話声で僕はぼんやりと目が醒めてきた。なんだか夢をたくさん見た気もするけど、まったく覚えてないや。良い夢も悪い夢も、まぜこぜで見た気がするからかな・・・
「翠? 目が醒めたのか?」
いつの間にか間接照明で薄ぼんやりとした部屋。卯一郎さんが近寄ってくる気配がして、僕はそっと起き上った。うん、もう眩暈もしない。大丈夫そうだ。
「具合はどうだ? 翠?」
またも心配そうに僕をのぞきこんできた卯一郎さん。たくさん心配をかけちゃった・・・
「もう大丈夫です。眠ったらスッキリしました。あの、今、何時ですか?」
「今は・・・午前一時を回ったところだな」
卯一郎さんは壁に掛けてある時計を見ながら時間を教えてくれた。もうそんな時間だったのか。変な時間に眠っちゃったもんで、なんか変な感じだ。
「何か食べるか? 翠?」
「え・・・っと」
そういえば、遅いお昼ご飯を食べてそこから何も食べてないんだっけ。無理して食べる事はないけれど、なんとなく小腹が空いた気もする。
「何か、簡単に食べれる物ってありましたっけ? あ、パンが残ってましたよね?」
「おい、数也。翠にさっきのリゾットを持ってこい」
「あ~? アンタねぇ、俺はアンタの召使じゃねぇの!」
「いいから早くしろ。翠が腹を空かせてる」
「・・・・ったくよ・・・ふざけんなよ・・・」
と、文句を言いながらも、山城さんは部屋を出て行った。卯一郎さん、なんか魔法でも使ったんでしょうか? それとも、生まれながらにしてお持ちになっている覇気的なものですか?
「数也は料理が得意なんだそうだ。冷蔵庫の食材を適当に料理してリゾットを作った。味もかなり良かったから、これで暫くは料理に時間を割かずに済む。良いコックが見つかったものだ」
「う、卯一郎さん・・・!」
なんか分からないけど、卯一郎さん、スゴイです・・・。なんか分かりませんが、人を虜にして使う術とか使ってますか?
「翠、服を持ってくるから、そこにいろ」
「え? 服・・・」
卯一郎さんに言われて気が付いたんだけど・・・・僕、なにも着てませんね! うわああ~恥ずかしい~! お風呂で倒れたから仕方ないんだけど、素っ裸でここまで運ばれてしまったのか~! う・・・・倒れたあと、その、僕のアソコ・・・・一緒に寝ててくれたんだろうか・・・卯一郎さんにキスをされて・・・うっわ~・・・ヤバいよ~
僕はお風呂で卯一郎さんにされたキスを思い出してしまって、また顔が赤くなっているのを感じ、急いで頭の中から卯一郎さんの唇とか舌とかの感触を追い出そうとした。でも、意識すればするほど思い出しちゃって、なんかドンドン体が火照ってきた。ヤバいヤバい!静まれ!静まれ〜!
「翠、服を持ってきたぞ」
部屋から出て、たぶん、脱衣所に置いてあった僕のトレーナーと下着を持ってきてくれた卯一郎さん。タイミング、悪いです~
「あ、ありがとうございます・・・・」
「? 翠? 顔が赤くないか? 大丈夫か?」
「だ、大丈夫! 大丈夫です!」
「? そうか?」
「はい、もう! まったく! あの、服をくれますか?」
「ああ・・・」
卯一郎さんは首をちょっと傾げつつも、僕に服を渡してくれた。いま、僕はちょっと、下半身が・・・都合が良くないもんで、布団の中でモソモソと着替え始めた。
「着替えにくくないのか?」
「だ、大丈夫です。特技です」
「特技? ベッドの中で着替えるのが特技・・・なのか?」
「そ、そうです」
「変わった特技だな・・・」
特技、というか、暖房が暖炉しか頼れなかったんで、寒い部屋の中で着替えるのが嫌だったから、布団の中でよく着替えてたってだけなんだけどね。
だんだん、その、僕の下半身の方も落ち着いてきたみたいだ。良かった・・・ホントにもう! 恥ずかしいやつだな。自分がこんな風になるなんて思わなかった。
もしかして、僕って自分が気がついてないだけで、すごくスケベなのか? やだなぁ~
「ほーい、翠ちゃーん。ごはんですよ~」
部屋の中に入ってきた山城さんは、片手に食事を乗せたトレーを乗せて、部屋のローテーブルにそのトレーを置いた。部屋の中に、リゾットの良い香りが漂うと、僕の腹がグウっと鳴った。その音に僕はお腹を押さえて、また赤くなる。単純な胃袋め!そんなにお腹が減った気がしなかったのに、いい香りがした途端に鳴るなんて。
「立てるか? ベッドに運ばせるか?」
「おい、なぜ思いついたヤツがやらねぇ?」
「立てます、立てるんで、そっちに行きます」
僕はベッドから出ると、ローテーブルまで行った。ソファがあるけど、ソファに座って食べるのは食べにくそうだから、そのまま絨毯敷きの床に座った。
わ~、美味しそう。
リゾットはトマトリゾットだった。温かい湯気をほんわり上げてすごく見た目からも美味しさが伝わってくる。僕はいただきますをして、スプーンでリゾットをすくい、口に運んだ。
「お、美味しい~・・・」
「ふふん、そうだろ、そうだろ」
本当に美味しい。ほっぺがキュンキュンする。山城さんは鼻高々に僕がリゾットを口に運ぶ姿を見ている。卯一郎さんは・・・・床に座っている僕の後ろのソファに座って、僕を足の間に挟み込む様に座った。なんでそんな座り方するんだろう・・・? っていうか、挟まれて改めて卯一郎さんの足の長さに感嘆とする。羨ましいな~・・・
「ういちゃんさー、翠ちゃんのこと、好きすぎじゃね?」
「ぶっ!! げほ!」
「翠、大丈夫か?!」
「なにやってんだよ、ほれ、水!」
コップの水を渡してもらって、僕はむせながら、水を飲んだ
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