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第7話 アリのように小さい

 風呂の中の二人が気になる。でも、ここで中に入って行ったらわざとらしいよね。  それに二人は仕事の話をしてるかもしれないし。……いいなあ二人には接点があって。  こうなると二人に対して壁を感じてしまう。本当はそんな壁なんてないんだろうけど。  御剣さんが俺のことを可愛いなんて言ったことを思い出す。  でもさ、本当に可愛いのはあの後輩なんじゃないの?  俺のことはからかっただけで、いつも御剣さんの傍にはあの子がいるんじゃない?  俺の考えはアリのように小さく小さくなってしまう。  しばらくして風呂から出た御剣さんにも、俺の態度は固くなってしまった。 「湯人くん……」 「何でしょう」  思ったよりも俺の声が固くて、顔も御剣さんの方を見れない。  何を俺はこんなに怒ってるんだろう……。 「……湯人くん。実は俺、もうそろそろここを()たないと行けなくて」 「え……」  俺は御剣さんの言葉に顔を上げた。急すぎて思考が追いつかない。  御剣さんは大人っぽい顔で俺に微笑む。 「最後にもう一度湯人くんに会いたくて来たんだけど、後輩も連れてくるしかなくって。結局ゆっくり喋ることも出来なくって残念だった」 「み……つるぎさん」  俺が何か言おうとした瞬間に、後ろからあの後輩が、御剣さんに抱き付いた。 「せんぱーい! 今日予定がタイトなんですからあんまりゆっくりしてられませんよ! 早く行きましょう」 「……解った」  御剣さんの首にあの子が腕を回して、二人はうちを出る準備をする。  俺はもともとちくちくとしてた目の周りが、これ以上緩まないように俺は顔を歪めている。 「先輩、早くぅ」 「わかった、わかった」  二人は今日も仕事をしてから帰るんだろう。俺が、あまり引き止めることも出来ない……。  御剣さんは、最後に振り向いて言う。 「また、今度はゆっくりこの土地に来たいから」 「は、はい」  ぜったいまた来て欲しい。そう言いたいのに、喉の奥が詰まるように痛い……。  俺が言葉を止めると、それで終わりかと思ったようで、御剣さんはそのまま暖簾を押して行ってしまった。彼の背が高くて、あの暖簾を押すのが好きだったのに。    風呂場の方からゆいちゃんがパタパタとやって来た。 「湯人さん、女湯の床が……げっ何?」  俺が顔をしかめて頬に涙を伝わせているのを見て、ゆいちゃんは呆気に取られた。 「な、何でもないっ」 「湯人さん、最近おかしいと思ってたら……」 「何か悩み事でもあんべか? つらいなら聞いてやるににょ」  マルさんにも同情されたけどとてもじゃないけど話せやしない。マルさん心臓発作になっちゃうよ。  ……都会のあか抜けた後輩に負けた……。本当はそういうことじゃないんだけど、俺は色々と悔しくてつい泣いてしまっていたのである。

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