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第8話 花火大会まで、いる?
泣いて目が腫れたなんて、いつ以来だろう。高校くらいになったら皆あまり泣かないもんじゃないかな。
風呂場の水道の蛇口をゴシゴシと擦っていると、鏡に目の腫れた自分が見える。
御剣さんと別れたのは午前中のことだ。
つまらないことを気にして、俺は御剣さんに何も言えなかった。この温泉を気に入ってくれたお礼も、何もかも……。
(……本当に会えなくなっちゃったんだよね……)
後悔先に立たずだ。会えなくなることを思ったら、本当は後輩のことなんてどうでもよかったのに……。
御剣さんはまたここに来たいと言ってくれたけど、今はそれが本音だったとしても、だんだん気持ちが薄れていって二度と会わなかったなんて、きっとこの世はそんなことばかりだ。
「ほらー、湯人さん元気出して。……っていうかやっぱり何をそんなに泣いてるんだろう……」
ゆいちゃんはやっぱり首を傾げながら俺を励ましている。ゆいちゃんの可愛いポニーテールがくるっと揺れて、壁の方を向く。
「今日は花火大会だし、見て元気を出しましょー。7時からですからあと少し頑張ればもうすぐですよ」
壁には、今年貼り付けたポスターが貼ってある。
今日はこの市の花火大会なのだ。温泉地として有名になるたびに地元の名士たちの寄付も集まり、結構有名な花火大会になっている。
(……もしかして)
御剣さんたちは温泉のついでに、この花火大会も取材するかもしれないんじゃないか?
それならまだこの地にいるかもしれない。
(……でも、どうやって……)
花火大会に直接行って御剣さんを見つけようなんて、ロマンはあるけど現実的には無理だ。
どうにか連絡が取れたら……と思ったところで俺は気が付く。
受付で落し物帳を取り出した。ここに、御剣さんの連絡先を書いてもらったはずだ。
そこにあったのは携帯の番号。俺は御剣さんに連絡するチャンスを得た。
(まだ、いるかな)
俺は焦りながら自分の電話を取り出した。
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