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第9話 花火まで待てない

 早くしないと花火が始まってしまう。始まれば興奮と音で話どころじゃない。  ゆいちゃんが不思議そうに見ている横をすり抜け、俺は玄関ロビーの声が聞こえないところまで歩いて電話をした。  ドキドキするし何をこんなことをしているのだろうと思う。普段だったら絶対にしない。でも、これが多分ラストチャンス。  電話はコールするが、出ない。俺は3コールを過ぎてもまだ鳴らしている。すると、4コール目で電話は出た。 「……もしもし?」  御剣さんの声だ。俺は焦って「あの」と告げる。 「お、温泉(やぶ)やの、湯人です」 「……湯人くん?」  電話の奥から御剣さんの声が聞こえる。(いぶか)し気だ。それもそうだろう。 「あっあの俺、御剣さんに言えなかったことがあって」 「そうか、何だろう」 「あのまだこちらにいますか? 花火大会にいますか?」 「えーと、いることはいるんだけど」  俺も花火大会に行きます、そう告げようとしたところで俺は入口の暖簾を見て驚いた。  暖簾を手でどけて現れたのは、電話を片手にもった御剣さん。俺が驚いて口を開けていると、御剣さんが電話を切って直接言ったのである。 「花火大会の取材はミドに任せて……俺はこっちに来たんだけど」 「え、えーと……どうして」  俺はまだ電話を耳に当てて話している。だって御剣さんがそこに。俺は混乱している。  御剣さんは俺に言う。 「俺も今日湯人くんとあんまり話せなくて……心残りだったから。俺のもう一度、忘れ物とゆうか……」  そう言うと、御剣さんは驚くことに俺を腕に抱き寄せた。俺は背の高い御剣さんの胸に頬を付けて、現状を飲み込めないでいたのである。 「俺、湯人くんのこと好きなんだけど……」  そう言って、戸惑うように俺の耳元を覗き込む御剣さんに、俺は恥ずかしくてなかなか目を直視できないでいた。

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