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第10話 湯気よりも熱く沸かして

 俺の頬が熱い。耳が熱い。  たぶん御剣さんは俺の答えをもう解っているかもしれないけれど、ここで甘えてはいけない。 「み……御剣さん。俺も好き……」  いっ言った。決死の告白をして上を見れば、俺を見下ろして微笑む御剣さんが。  ああ、やっぱり格好いい。この人で良かった。  俺がやっぱり恥ずかしくなって目を伏せると、追って来るように御剣さんの唇が。  い、今、俺の耳元に触れた気がするけど気のせい!? 「あーー……ごほん。ご両人とも」  声が聞こえてハッとすると、そこにはモップを片手に構えたゆいちゃんが。  彼女はもう首を傾げてはいない。 「そこさ、人が来るから。ね」  そうだ、ここは暖簾のすぐ横の、玄関ロビーで人が通るところだ。焦る俺にゆいちゃんは親指をクイと立てて続ける。 「今さ、男湯客いないっしょ」  な、なんて出来る子だ!   俺たちはゆいちゃんの言葉に甘えて、そそと二人一緒に移動して、男湯の更衣室のさらに中へ。更衣室の入口は暖簾で仕切られているだけだが風呂場は違う。  ガラス戸で仕切られた中には内鍵がある。俺はそれをカシャンと閉めると……御剣さんと二人だけの空間に……。 「……御剣さん」 「湯人くん」  御剣さんは俺の手に指を絡めて来て、いわゆる恋人繋ぎにつないだ。  それからそっと俺のことを押し倒した。濡れた風呂場の床に、だ。  着替えがあるからいいけど……。  湯気が立つ風呂場の床の閉じられた空間で、俺たちはしばらく見詰め合うと、唇を合わせた。  そっと触れるくらいに……何せ、俺たち二人の初めてのキスなんだから。  その時。  ドーン……と外で音が鳴るのが聞こえて、俺たち二人はハッと外を見た。  うちの風呂場は、ガラス戸で仕切られた外に小さいながらも岩場の露天風呂がある。  その塀の上の空に見えたのが、花火だった。 「きれいだね……」 「うん」  その後、君の方がきれいだよ、と御剣さんが言ったかどうかは内緒として……。  俺たち二人は、そろそろ出なくちゃ、となる三十分の間にずっとキスを繰り返していた。  それも(しび)れるようなキスだったんだ。

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