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開幕 9

 男は慌てて帰ってきた。   相棒には「もう終わりだ。一人ではムリだ」と泣き言を言われたが、そこはもう少しだけ待ってくれ、と拝み倒した。  あの口に咥えさせないなんて有り得ないだろう。  あの歯のない口の中を喉までこすりながら、頭を押さえつけ、あの怒りに満ちた目に睨まれながら喉の奥に放つのがたまらなく男は好きだった。    無力なモノを踏みにじるのはまるで、自分が強くなったみたいでたまらない。  その万能感はセックスにも作用していた。  そう、踏みにじり、モノのように扱うからこそ、彼とのセックスは楽しいのだ。  何より、絶対にそれがバレないことが。    「役立たず」達を世話して金を貰っている。  この「役立たず」達は自分より金持ちだ。  それも気に入らなかった。  好きでこんな仕事をしてるわけじゃない。  給料は安く、休みもない。  人手不足を言うわりに、定員一杯まで入居者だけはいれてくる。  こんな仕事はゴメンだ。  本当はこんな仕事をする前にしていた仕事に戻りたい。  でも、仕事がない。  非常勤ならあるが、保険もないそんな仕事にはつけない。  仕方なかった。   あちこちさがして無理で。  失業保険もきれかけていて。  講習を受ければなれるこの仕事につくしかなかった。  生活のためだけだ。  今さら時給のバイトなんかで働いて生きていけるものか。  安月給でも、ちゃんと保険もついている仕事は、こんな仕事しかないのだ。    夜勤続きで、常に人手不足のこんな仕事しか。  

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