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開幕 12
床に転がった男の目の前でゆっくりと起き上がった者がいた。
しなやかな脚が床を踏む。
優雅な腕は体重を支え、起き上がる脚の手助けをする。
長く使ってなかったから、それは少し苦労がいるようだった。
だけど笑いながら起き上がった。
取り戻した手足は長く美しく。
開いた唇からのぞく再び生えた歯は白く美しく。
取り戻した舌があたえる声は伸びやかだった。
彼は立ち上がり、両手を伸ばした。
そう、男が手足を失い歯を失い、舌を失った代わりに、彼は手足を歯を取り戻し、舌をとりもどしていた。
ああ、身体が自由に動くのは・・・なんていいんだろう。
久しぶりに立ち上がりみる世界は、寝たきりのまま、水平なまま見る世界より立体的で、広がり、高さがあった。
一瞬呪いを忘れて歓喜した。
地獄に生きているんだと思っていた少年時代、まだそこは地獄の入り口でしかなかった事を教えられたあの日、あの絶望と苦痛と恥辱の饗宴以来、初めて呪いを忘れた。
ああ、なんて素晴らしい。
だけど彼はすぐに思い出した。
自分がすべきことは何なのか。
それはそれは身体が動かなくされたその時からずっと望んできたことだった。
呪いの成就。
もう、呪わなくていい。
この手足さえあれば、それでいい。
呪いは祈りだった。
呪いは願いだった。
それは、こういう形で叶えられた。
さあ、始めよう。
取り戻した身体こそが呪いなのだ。
自らが呪いとなって・・・。
呪った全てを壊してやる。
彼は笑いながら床に転がる男を見つめた。
楽しくて楽しくてしかたなかった。
さあ、最初の一人だ。
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