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グール 1
わかってない。
本当にわかってない。
僕は不満タラタラだった。
犬のヤツ。
・・・バカにしてんのか?
そろそろアイツを殺すべきか?
ガキにバレないように犬を殺す方法をそろそろ真剣に考えるべきだ。
殺すこと自体はずっと考えている。
何かのドサクサに紛れて殺すつもりだったが、もう少し計画的に殺した方がいいかもしれない。
ガキはそういうことは目敏いからだ。
犬のヤツ!!
僕の大切な趣味をバカにしやがって。
それでも仕方ない。
これはこれなりに楽しむしかない。
僕は耳を澄ます。
僕は音を立てずに動くことが出来る。
つま先だけで、地面との接地面をへらし、柔らかく関節を使い衝撃を吸収しながらあるく。
暗闇なら誰にも気付かれず人の中を歩き抜けることが僕にはできる。
だが今は、昼間だ。
廃墟になった山の中のホテルは薄暗くても光は差し込み、僕の姿は見えるだろう。
だから音を消すのは僕が消え去るためじゃない。
僕が見つけるためだ。
僕は今鬼ごっこをしている。
あまり好みの遊びではないが、これで楽しむしかないのだ。
まあ、遊び相手も好みのタイプではないけれど。
それでも、僕には週に一度のこの遊びが必要なのだ。
どうしても。
押し殺したつもりでも、僕には呼吸が聞こえる。
恐怖は呼吸を乱す。
どんなに抑えようとしても、僕には聞こえる。
ほら、お前の息遣い。
必死で恐怖をこらえ、冷たい汗を流しているんだろ?
心臓の音さえ聞こえそうだ。
肩で息をし、頭をフル回転させて、生き延びる方法を考えている。
これはゲームだ。
この建物の中で1時間生き延びたなら助けてやる。
僕はお前達にそう言った。
他の仲間5人はもう死んだ。
僕が殺した。
一人は首を切り落とし、一人は喉から腹まで引き裂いて、1人は心臓を掴みだし、1人は背中から切り裂いて開きにし、1人はちょっと好みだったので少し時間をかけて皮を剥いでから性器を切り裂きショック死させた。
残っているのはお前だけ。
後五分生き残ればお前の勝ちだ。
僕の時計のタイマーはちゃんと作動しているのだ。
僕はこういうことで嘘はつかない。
お前は後五分逃げなければならない。
コイツは頑張った。
まさか二番目に殺したヤツの死体になりすましていたとはおもわなかった。
みずから死んだ仲間の血をかぶり、ハラワタをとりだし自分の腹の上にのせて擬態していた。
死体の方は僕が他の連中を殺している間に多分ダストシュートに投げ込むかして、とりあえず僕の目からは隠したのだろう。
死んだ血の臭いと、そこまでする根性があるとおもわなかったため、気付くのに遅れた。
大体において、この手の犯罪を行うモノには根性なんてないと思いこんでいたのが予想外だった。
コイツらは女を拉致してレイプして、それを撮影して脅してだまらすという連中だった。
大体において集団で自分より弱いモノを襲うというのは、弱い生き物のすることだ。
根性があるヤツがすることではない。
だからそこまで出来ないって思ってたんだよね。
抵抗されて暴力を振るわれ、死んだ被害者もいる。
だが、コイツらは捕まらない。
コイツらの親の何人かはこの国の偉いさんだからだ。
金と権力は色んなことをもみ消してくれる。
被害者達は沈黙を強いられる。
だが、少しばかりやりすぎた。
コイツらの親程の権力はないが、金ならある誰かの娘に手を出したらしい。
それに、コイツらの親も権力があるとはいえ、敵もいないわけじゃない。
常に弱者だけを狙い撃ちできる賢さがコイツらにはなかったわけだ。
それなりの権力と金はたっぷりある被害者の親は賢く立ち回った。
それに弱者じゃない者にまで手を出してしまえば、上の階層も見逃せなくなった。
結果、「公権力では捕まえることが出来ない悪党」のリストに載ることになった。
捕まえてどこかの面目を潰してはいけないが、殺されるのは良い、ということだ。
つまり、僕に与えられる「殺してもいい悪党リスト」に載ったってわけだ。
親もバカ息子達を自分達のメンツのために殺すことに同意したってことだ。
これは、僕に「リスト」を与える、犬の極めて政治的な取引にも関係してそうだ。
犬のヤツは権力の犬ではあるけれど、ヤツもヤツなりに汚い権力争いに食い込んでいかねばならない。
僕の管理監視と言う、誰もが引き受けたがらない出世を諦めた任務に着かされてはいても、だ。
ヤツもただ使い捨てにされるのはゴメンだろう。
犬は犬になる必要がある理由があるから犬になったが、ただ使い捨てにされたなら・・・その意味もなくなるからだ。
そう、結局のところ僕は汚れ仕事をしてやっているのだ。
始末屋だった頃と何も変わらない。
誰かの邪魔になった人間を、
「やりすぎて」存在が許されなくなった連中を、消す。
ただ、昔始末屋していた頃と違って、僕がすることに誰も口を出さない。
何故なら、この国の政府が手にした必殺の武器は僕だけだからだ。
コイツらの親達は僕に対する復讐心に燃えるかもしれない。
だけど、彼らは僕に手をだせない
僕を殺すことほ誰にも出来ない。
人間では僕を殺せない。
それに、僕がいなくなって困るのも人間なのだ。
僕を殺したいほど憎む奴らを守ってやっているのも僕なのだ。
僕は正義の味方。
人間の救いの神なのだから。
僕は隠れるソイツの呼吸の音と、恐怖の臭いを嗅ぎながらゆっくりと近づいていく。
ロッカーの中にお前はいる。
お前で終わりだ。
お前をどうやって殺そう。
時間がないのが残念だ。
後4分。
僕とお前達の鬼ごっこはこれで終わる。
僕の右手はゆっくりと刀に変わっていく。
ジェル状に蕩けて、銀色に変わり刀になる。
そう、これは僕の「能力」。
「武器化」と名付けられている。
僕の右手は「どんなものでも斬れる刀」と「撃ったものを直径50センチの球状に消し去る銃」に変化する。
それが僕の能力だ。
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