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グール 10

 スーツが投げてきたバスタオルで身体を拭う。 多分、あの人にたっぷり出された精液はまだ残っているけど仕方ない。  俺はスーツが持ってきたズボンを履く。  あの人の身体も丁寧に拭う。  顔や髪についた血は全部はとれないけれど。  俺の血もある。  あの人は俺を噛むのに夢中だったから。  あの人はそれでも目を覚まさない。  思わず、そっと唇に唇を少しだけ重ねた、  「もういいか?」  部屋の入り口のところで背をむけたままのスーツが尋ねる。  俺があの人の裸を見たらダメだと言ったので、そうしてくれている。  「いいよ」  あの人に服を着せたのでそう言ったら、振り返ったけれど、俺を見てまた背中をむけた。  「・・・早く服を着ろ」  俺にスーツは困ったようにいう。  すぐに背中を向けられる。  まだ俺は上半身の服を着てなかったけど、俺はあの人の裸が見られるんではないから構わないんだけど。  ズボン履いてるし。  大体スーツノンケだし。    「あの男が私がお前の身体を見たと知ったら・・・どんなことを言い出すかわからない。頼む服を着てくれ」  スーツか困ったように言った。  ああ、納得。  あの人は人前で俺を犯すようなことも平気でするくせに、見た相手の目玉をえぐり出すこともやりかねない、めちゃくちゃ理不尽な人なのだ。  俺は慌ててシャツを着た。  「それに・・・結構・・・」  小さい声で何かスーツが言っていたが良く聞こえなかった。    スーツはあの人の「補助」「監視」「管理」が仕事の公務員だ。  いつもスーツなので俺には「スーツ」、あの人には「犬」(国家の犬だからとあの人)と呼ばれている。  本名は何回聞いても忘れちゃう。 スーツになっちゃてるから俺の中で。    190センチ近い立派な鍛え抜かれた体格と、すぐ忘れしまうような平凡な顔をしている、30代半ばの男だ。  捕食者が起こす事件をあの人が解決するのを手助けする。  本人曰わく、「誰もやりたがらない汚れ仕事」らしい。  警察か自衛隊か、そういう組織出身だ。  捕食者を狩るあの人のアシストと、捕食者であるあの人の監視、あの人の暴走を止めること。  あの人の仕事を手伝うために、素人だった俺の訓練もしてくれてる。  あの人にも少し習ったけど、あの人曰わく俺には正規の訓練の方が向いてるということで、スーツとその部下に俺は様々な訓練受けている。  あの人の管理そんな不可能な。  そんな仕事。  かなりの無理ゲーをスーツは頑張っている。  可哀想だ。  正直に言う。  俺の恋人であるこの人は、めちゃくちゃ性格が悪い。  スーツやその部下達はこの人の嫌がらせと嫌みに満ちた言動に耐えなければならないし、おまけにこの人は簡単に殺す。  もう思いつきレベルで。  この人の力を借りて倒さなければならない捕食者と本当のところ、危険ということではほとんど差はない。  俺が来るまでは、殺しこそしないまでも、スーツの部下の目玉をくりぬいたり、手を切り落としたりはあったらしいから。  殺しこそしなくても。  殺さないのは、一応、あの人は今の暮らしが気に入っているのからだ。    長い「始末屋」生活では居場所を転々としなければならなかったらしく、「家」というのがちょっと憧れだったらしい。  今は国に雇われの身なので、「家」に定住できる。  それが引き受けた理由だったと言っていた。  まあ、だから「詐欺師」という捕食者との戦いで「傭兵」にマンションを吹き飛ばされた時はあれでも結構落ち込んでいた。  「でも、お前がいないとな、家じゃない」  その後、真顔で言われて、思わず真っ赤になってしまったのを覚えている。  時々真顔でこういうことをぶっこんでくるからこの人は困る。  「話はマンションに帰ってから聞くよ」  俺はあの人を抱き上げた。  「寝てるのか?」  スーツが聞く。  怪しんでいる。    ああ、あまり良くないな。  気付かれた。  「うん」  俺は素直に認める。  スーツは好きだ。  スーツと俺には絆みたいなものはある。  いつかあの人に耐えられなくなった時に、スーツは俺を殺してくれると約束してくれた。  あの人を愛してる。  それを止めることは出来ない。  でも、だからこそ、スーツの約束は俺の御守りであるのだ。  だが、俺にももうわかっている。    スーツは俺とあの人の味方ではないのだ。  スーツはあくまで「国家の犬」だからだ。  「いつからだ」  スーツは尋問してくる。  さすがだよ。  俺は一瞬悩んだが、正直に答えることにした。  スーツはギリギリまでは俺達の、いや、俺のために動いてくれる。  それを超えたら、見捨てるだろうけど。  「この2ヶ月程。一度寝たらなかなか目を覚まさない」   俺はこたえた。   たいした時間じゃない。  せいぜい2時間ほどだ。  急に眠りこけるわけでもない。  でも、眠りが浅く、俺が抱きしめている時以外は僅かな気配にも目をさますこの人が、ゆさぶっても目を覚まさない。   でも、いつもではない。  たまに、だ。  3日に一度位。    俺に安心しているのか、と最初はデレデレ思っていたけれど、揺さぶっても起きない、怒鳴っても起きない時に恐怖を感じた。  あの人は  死んだように。  眠り続けた。  そう、数時間だったけど。  「本人は?」  スーツは聞く。  「何か考えてはいるみたいだけど、とりあえず寝てる間は離れるな、って俺に」  あの人は目覚めて、錯乱している俺の説明にも冷静だった。  捕食者が何なのか誰にもわからない。  だからあの人に何が起こっているのかも、誰にもわからないのだ。  あの人は眠る自分を守るように俺に言った。  それで充分だと。    「お前は僕を守るだろ?」  そう笑って。  守るけど。  守るけど。  でも、この変化が俺には怖い。    「・・・数時間たまに目覚めないだけだ。大したことない」  俺はスーツに言った。    スーツにあの人の異常を言えなかったのは、国はあの人を利用しているからだ。  だけど、あの人が使えないと思ったら、容赦なく切り捨ててくるだろう。    あの人より扱いやすい捕食者が手に入ったら?  あの人の立場は微妙だし、それにあの人が無防備になる時があることを誰にも知られたくはなかった。  「そうか」  スーツは多くを言わなかった。  大丈夫。  スーツは味方だ。  ギリギリまでは。              

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