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グール 11
「グール?」
僕は眉をひそめた。
「我々はそう名付けた。脳を破壊するまで死なない。生きた人間の肉を喰らう」
犬はテーブルの上に写真を並べた。
ガキがコーヒーを犬に出している。
そんなことをしなくていいと云ってるのに。
育ちがいいのだ。
僕達は食事の必要はないが、コーヒー位は飲む。
写真を覗き込みガキは眉をしかめた。
ガキは残酷なモノに慣れない。
ずっと僕といるのにな。
ある意味大したものだ。
僕も写真を眺める。
動物に喰い殺された人間の死体だ。
どこかの制服とおぼしきポロシャツとズボンを着た者、パジャマ姿の者、全裸の者、警察とおもわれる死体もあった。
「3日前の夜、障碍者施設から通報があった。職員が殺された、と。慌てて駆けつけると二名の職員が殺されていた」
ポロシャツを着た死体。
顔の柔らかい肉と腕、そして腹を齧られている。
そして全裸の死体。
両手両足がないその全裸の男は喉や肩、胴体の半分を食いちぎられていた。
「こちらは施設の利用者か?」
僕は全裸の死体を指差す。
両手両足が肘から先はない男だ。
その両手両足は切断した跡が見えなかったからだ。
肘や膝の先は枯れ木のように黒ずんではいたが、その日切断されたとは思えなかった。
ただ、男の陰茎は明らかに切断されたのがわかった。
「いや、それは職員だ」
犬は答えた。
手足のない職員?
この手足は切断されたものではないことは誰にでもわかる。
壊死したかのように黒ずんで肘から先が失われているからだ。
でも、僕が気になったのは手足が無いことじゃない。
「ここも食われたのか?」
クスクス笑いながら僕は言う。
トントンと写真の股間を指でつつく。
全裸のその男のそこは無かった。
犬は嫌な顔をしたし、ガキも不愉快そうな顔をした。
コイツらにはユーモアのセンスがない。
チンポ喰われてたらめちゃくちゃ面白いじゃないか。
違うのはわかっているけど。
食いちぎられた腹や喉や肩とはちがって、ここは切断されている。
他の傷口とは明らかに違うし、おそらく死後切断した。
拷問は僕の特殊技能だ。
生きながらなのか、死んだ後なのかは・・・経験上、わかる。
「いや、そちらはゴミ箱に放り込まれてた」
犬は嫌な顔を隠そうともせずに言った。
喰う価値もないもの、か。
ふうん。
「で、二名殺されていたのに、写真の数はさらに三枚あるんだ?」
僕は尋ねる。
写真は合計五枚ある。
死者は二人なのに。
「その日の死体は夜勤職員二名、そして何故かその施設の居住者3名も行方不明になった。その三名とも、生活の全てに介助が必要な居住者だ。一名は指一本動かせない上、食事すら出来ず、胃からの栄養注入を行っていたほどだ。一名は両手両足が過去に巻き込まれた事件のため切断されている、もう一名は多少手足は動かせるが立つことも座ることもできない。自分では動けない三名が行方不明になった」
三枚の写真が新たに出される。
痩せこけた3人の男の写真。
3人ともベッドの上だ。
年齢もわからない、無表情な顔。
ひとりは口がおかしな感じになっていた。
「歯を抜かれたのか」
パジャマを着ていて上半身の写真だからわからないが、僕はコイツが手足を切られた男だとわかった。
「事件、ねぇ。ダルマにされてたんだろ。コイツ」
僕はニヤニヤ笑った。
組織にいたとき見たことがある。
この世界には狂った変態がいる。
「ダルマ」。
両手両足がない人間を犯すのが好きな最悪のサディストだ。
わざわざそんな人間を「つくり」あげる。
まあ、僕も似たようなものだがな。
僕は死体の方が好きだ。
そこは弁解しない。
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