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グール12

 犬はダルマにされていた男の名前を告げた。  「22才。二年前・・・ある事件で摘発された非合法のクラブで発見され、保護された。彼は舌も切られている。特殊な嗜好を持つ人間のための店だ。まだ、彼はマシだ。生きていたからな。そこの店の客は大抵が殺す方が好きなんだ」  お前のような、と言葉を続けかっただろうに、言わなかった犬を褒めてやりたい。  言ったら僕はコイツを殺したからな。  僕にかんすることでとやかく言う奴は全員殺す。  大体僕が人間を殺して何が悪い?  僕は人間じゃないんだからな。  「捕食者」なんかになる前からね。  大体、人間ではないものとしてつくられ、そうでないものとして扱ってきていたくせに、今さら人間の基準を与えられても笑えるだけだ。  「手足もない男。殺された職員と同じだな」  僕は呟く。  犬は頷く。  「殺された職員は少なくとも23時、廊下の防犯ビデオに浴室に、この手足のない彼と一緒に入るのを確認した。確かにそこまでは手足はあった」  僕は興味を持った。  「わざわざ23時に浴室になんでこの職員は彼を連れて行った?施設の風呂に入る時間じゃないだろう?」  僕は聞く。   大体わかっているけれど。    もし、この男が「そういう風」に利用されてことを知ったなら、「そういう風」に利用しても良いと考える奴が出てくるもんなのだ。  僕が「組織」にいたころ、僕が「人形」だったと知って、僕を犯そうとした奴は何人かいたわけで。  まあ全員殺したけど。  そんなことを思ってしまったことを全員泣きながら後悔していたけどね。  まあ、思い出す必要もないことだ。  「二人分の精液が死体には附着していた。被害者の職員自身の精液とそれ以外の一人のね」  簡潔に犬は言い、ガキはため息をついた。  「酷い。抵抗出来ない人にそんなことを?」  ガキは苦しそうだ。    まだガキは世界をわかっちゃいない。    この世界はそんなもんで溢れてる。    むしろこの話を聞いて、手足も歯もない男に勃起する変態がいるのか、と考える奴が多数だろ。  むしろ、ニヤニヤ笑いながら。  そんなもんだ。  だから、生きた「人形」を作ったり、「ダルマ」を作ったりするんだ、人間は。  「この男の手足は?」  僕の言葉に犬はもう一枚写真を出す。  黒く枯れ果てた木、そう見える。  だけどそれは間違いなく人間の手足だった。   干からびてはいても。  「何らかの方法で僅かな時間で手足を壊死させられて折られている。しかも、舌もなくなっている」  手足がなく舌もない。  彼、のように。  そしてもう一枚写真が追加される。  防犯カメラの映像の写真。  全裸の男が、パジャマの男と二人で歩いている。  映像が粗くて顔はわからない。  「浴室に職員が彼を車椅子にのせて連れて入った。それも映像が残っている。そして、後からこのパジャマの男が入っていった。そして、この全裸の男とパジャマの男が連れ立って出てきて、職員の男が手足と舌を失い喰い殺された死体になって浴室に残された」  犬はそんな風に本当にあった奇妙な話をはじめた。  それは真夜中の一時頃だったそうだ。  「もう職員は誰もいない。職員は死んだ。誰かを寄越した方がいい。出来れば、【嫌われてない】職員がいいな」  その声はそう言った。  夜、看護士にコールがあったのだ。  この施設では夜間は看護士は常駐せず、何かあれば当番の看護士が駆けつけることになっていた。  施設からのコールは当番の看護士が持つ携帯に繋がる。  その声は聞いたことのない男の声だったと看護士は証言している。  電話はすぐに切られた。  かけ直しても誰も出ない。  いるはずの警備員に電話をかけても。    看護士は慌てて施設長に連絡。  施設長はすぐに警察に通報。  「職員か殺されたらしい」と。  警察官と施設長と共に施設にかけつけた。  そこには二名の職員の死体があり、三名の利用者が消えていた。   二名の職員は喰い殺されていた。  消えていたのはその施設の中でも、介護度の高い起き上がるどころか、話も出来ないはずの三名だった。  警備員は気絶しているのを発見された。  巡回中、背後から殴られたのだと。  映像は残っていた。  誰かが背後から警備員を杖で殴っていた。  もう全裸ではなかったが、浴室から出てきた男と同じだとわかる。  そして、三名の男が施設を出て行くのが映像で確認されている。  「どうせ、誰かが入ってきた様子はないんだろ?」  僕は言った。  バカバカしいがそういうことだ。  だから僕にこの事件を犬はもってきた。  

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