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グール 15

 殺人があっても、食事や介助はしなければならない。 介助が必要な人がほとんどなのだから。 施設はなんとか職員をかき集めて次の日も施設を運営していた。 浴室やいくつかの部屋は警察が封鎖し、鑑識が来て写真やらなんやら、そして死体を運び出したりまあ、色々決まり通りにやって、とりあえず警察官を2名置いていっていたわけで。 混乱の中、なんとか施設はその日の夕食までこぎ着けた。 そんな中で、食事のために居住者を食堂に迎えに行ったはずの職員が帰ってこない。 残り三名の職員は困った。  夕食の介助もしなければいけない。  ここから夕食後の排泄介助、寝る前のナイトケアもあるのだ。    早く戻ってくれないと。   一人の職員が迎えに行ったはずの部屋に覗きに行った。   そこには戻って来ない職員がいた。    ベッドの上で男にのしかかられて。  その女の職員は脚を広げられ、その間に入るように男が職員の服を乱暴に引き上げていた。  白い胸が見えた。  最初は不審者にレイプされているのかとそれを見た職員は思ったらしい。  施設に侵入していた不審者がパジャマを着ているというのがおかしなことだけど。  そして、それはレイプ等ではなかった。    腹を喰い破られれていた。  女の柔らかい腹を食いちぎり、パジャマを着たソイツは夢中で貪っていた。    ジュルジュルと腸をすする音が響いていた。  職員は悲鳴をあげたが、全くその男は気にも止めなかった。  女の腸を貪りつづけた。  だが、その職員は根性があった。 そのまま逃げないで、  もう一人の帰ってこない職員が向かった部屋も覗いたのだ。  そこもまた、悪鬼が血まみれになり死体をかじっていた。    職員は、そう、その彼女は、本当に勇気があった。   彼女はその2つの部屋に鍵をかけたのだ。  そう、ここは施設ではなく、住居なのであるという立て前から、部屋には全て鍵がついていた。      電子ロックだ。 カードをドアの内と外にあるボックスに差し込めば鍵がかかる。  使われることはほとんどなく、鍵があることを知らない、忘れている居住者も多い。  大抵のカードが使われることなく、居住者達によってどこかしまわれているのだ。  この鍵をかけたところで、職員はカードキーを持ち歩いているので(非常時に対応するという名目で)開けることが出来るのであまり意味はない。 そもそもここにいる居住者達は24時間介助が必要だからここにいる。 鍵をかける意味が無いのだ。    だが今回はこの鍵が役に立った。    外からも外に備え付けられているカードリーダーを通せば鍵をかけることが出来るのだ。 いつも切ってある鍵を、職員の女性はその部屋から出る時に施錠したのだ。    彼女は悪鬼を室内に閉じ込め、施設に現場管理のためにいた警察官に知らせた。  そして、食堂を他の職員と共に封鎖した。  扉の前にテーブルやあるだけの棚などを置いて。  そして助けを待った。  居住者全員を連れて逃げるのは不可能だったから。 程度の差はあれ、全員が生活に介助が必要な人達で直ぐに逃げれる者はほとんどいなかったから。    僕は感心する。  残された職員達は利用者を置いて逃げても良かったのだ。  むしろそうするべきだった。  だがしなかった。    僕は誤解されがちだが、誰でも彼でも軽蔑して殺してるわけじゃないぞ。   僕は勇気のあるヤツが大好きなんだ。  善良なだけなら、反吐が出る。 苦痛割増で殺しちゃおうと思っちゃう。 だけど、本当に勇気のあるやつは好き。  そういうヤツは殺すとしても、とても敬意を持って殺すからね。  (苦しませないとまでは言わない)       

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