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グール 16

 食堂に立て籠って、居住者達を見捨てなかった彼女を始めとする職員達の勇気は素晴らしいが、彼女達や居住者達が助かったのは今回のケースでは運が良かっただけだ。     生き残りたいならこういう手段はとるべきじゃない。    見捨てて逃げるべきだ。  何故なら、職員を貪っていた悪鬼と化した、元は寝たきりだった利用者達は、鍵のかかったドアを簡単に破壊して外に出てきたからだ。 そう、【パジャマ】が部屋に入った居住者はやはり、グールになった。 何故かその時ではなく、時間を置いて次の日の夜に。 化け物になった。 肉体を楽々と引きちぎり噛みちぎるような化け物に。  だから鍵やドア、おそらく食堂のバリケードも何の意味もなかったはずだ。  だから逃げれる時に確実に逃げるべきだった。  逃げられないヤツを囮にしてでも。     基本中の基本だ。  結果的に助かったってのはただの運だ。  彼らは殺そうと思えば殺せたのだから。  彼らの一人は40代男性、もう一人は50代女性のはずだった。  だが、彼らは年齢さえ若返っていた。  グールになった彼らはどうみても20代の男女だった。  しかもその身体は寝たきりだった先程までとはちがい、健康的に張り詰めていた。    顔面を血まみれにして返り血さえ浴びていなければで、生き生きした若者に見えただろう。  面影をのこすのは、痩せこけた身体から健康的な身体に変わり、パッツンパッツンになったパジャマだけだった。  ダンボールでも破るみたいにドアを破壊し、廊下に出てきた二人の姿を防犯カメラは捉えていた。  どちらも楽しそうに笑っていた。   二人がいたのは隣り合った部屋だった。 ほぼ同時に外に出て、お互いを見つけたように笑いあった。 ただ、彼らは食堂に向かうのではなく外に出ようとした。 だがこの施設は【ホーム】と主張してはいても、そこは居住者達を閉じ込める鳥かごなので、外へ出るためには玄関へ向かう通路の大きなドアの鍵の暗証番号を知る必要があった。 ドアの暗証番号がわからなかったため、エントランスへと向かうドアの前で2人はしばらく立ち止まった。  暗証番号など気にせずにぶち壊して外へ行けばよかったものを。  まだ人間らしさの名残があったのだろう。 おそらく、もう少し動けていた時にはその暗証番号で外に出たこともあったのかもしれない。 ドアの数字キーを2人が何度か押しているのがカメラに映っている。  だから、間に合った。    駆けつけたのは制服警官だった。  制服警官がその場にいたのはその前日の事件のため、封鎖された現場の部屋を見張るために配置されていたからだ。  話を嗅ぎつけやって来る記者等、色んなことから現場を守るためでもあった。  彼は駆けつけたわけだ。  血まみれの二人の悪鬼をみて、迷いなく銃で撃ち抜いた警官は正しかったと思う。  ただ、支給の拳銃、しかもリボルバーじゃね。  確かに、警官はその二人を撃ち抜きはしたのだ。  人間だったら崩れ落ちていたはすだ。  だが、撃たれても彼らは平然としていた。  胸や腹には確かに銃弾があたり、血が流れだしたが、全く気にもしていなかった。    その様子に怯え、追撃が遅れた。  まあ、撃てたとしても、残り二発か三発か。  やはり、支給の拳銃は人間用でしかない。 男の方のグール跳ねた。 人間では無い動きで、警官に向かって。  向かって来る身体に向かって、警官は追撃しようとした。   だけど、もうその時には右腕ごと銃は奪われていた。  凄まじい速さだった。   犬が流す防犯カメラ映像に見入る。  犬の持ってきたノートパソコンにその映像は流れている。     

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