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取引 2

 「こんばんわ」  あの晩、あの子は初めて話をした。  話せることが嬉しいらしく少し早口だった。  「あなたに会いに来たかったんだ」  あの子は嬉しそうにベッドの傍らに立ち、全く遠慮もせずに手を握ってきた。    人に自分から触れたことがないから、一方的にさわられるだけだったから、いきなり触ってはいけない等、知らないのだろう。  でもその指は優しくて、老女に会いにこれたことが嬉しくてたまらないことが伝わってきたから不快ではなかった。    「動けるようになったの?」  老女は観ればわかることを訊ねる。  これはおかしい。  やせ衰え、使わないから退化していた手足は、しなやかな筋肉に覆われて健康的だ。  パジャマが窮屈そうになっている。  表情も、その目と同じ位豊かになり、輝くばかりの笑顔が溢れている。    20代の外見に少年の笑顔。    可愛いわよね、老女は微笑んでしまう。  でも、こんなのはおかしい。  夕食後に見た姿と数時間でここまで変わるのはおかしい。  老女は思う。  「うん。すごいでしょ」  自慢するようにあの子は言った。    「だから、一番最初にあなたのところに来たんだ。あなたに魔法をかけてあげるために。あなたを自由にしてあげるために」  あの子は無遠慮に老女の髪を撫でながら言った。  この子にレディにはそんなことをしてはダメって教えてあげなきゃね。  そう思う気持ちが、「魔法」に対する疑問より先に来たのは自分でも不思議だった。    魔法。    そう、魔法。   これが魔法以外の何だと?  生まれてからずっと寝たきりだった男がこんなにも自由に動いているのだ。  「魔法?」  老女は聞いた。  「そう、魔法。スッゴイ魔法だよ!!」  あの子の目が、乱反射した。  全てを映す鏡のように。  老女は何故かそう、思ったのだそうだ。

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