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取引4
コイツ、バイブ以外は使い道ないんだから。
「でも、途中から泣きながらむしゃぶりついてきたのはお前だぞ。オレの胸ばっか吸って、挙げ句の果てにオレの身体中舐めまわしてたじゃねーか。童貞とは思えないマニアックさだったぞ」
オレに指摘されてグズは真っ赤になる。
コイツは初回でアナルまで舐めれた変態なのだ。
しかも自分の精液が流れるそこを、だ。
指摘してやればグズは真っ赤になって言葉を失う。
「良かったじゃねぇか。お前一生童貞の予定だったんだから」
オレは煙を吐き出す。
グズは怒りながら風呂へ向かってしまった。
オレも、風呂に入るべきなんだが。
グズが簡単に身体を拭いてくれているとは言え。
どうのこうの言ってもグズは優しいのだ。
アイツが気になる。
ああ、やはり気になる。
布団から出てたら・・・いや、そんなの言い訳か。
いつだって気になる。
オレはため息をついた。
色々予想外なことだらけだ。
だけど、手足が生えて、化け物になった以上に予想外なことがある。
それは、オレが恋をしているということだった。
オレは素肌にズボンとシャツを引っ掛けてアイツの部屋に向かった。
広い廊下。
段差はない。
この家はどこへでも大きな車椅子でも入れるように作られている。
なので二階はないが、そこそこ広い。
5部屋もあるのだ。
相当金のかかる作りだが、暖かみのある古民家風のデザインだ。
全室和室ってのは面白い。
アイツの部屋は一番奥で、アイツは自分のベッドで寝ていた。
一番下にすれば床に着くばかりに低くなる、一見布団で寝ているかのように見える介護ベッドだ。
もう介護ベッドに寝る必要はないのだが、自分のベッドで寝たいらしい。
そう、ここはコイツの別荘なのだ。
まあ、長居は出来ない。
明日には出ていく。
だけど、ここで色んなモノを仕入れたのは良かった。
金や車やなんやかんやだ。
グズとセックスする前に管理人夫婦は殺して喰った。
殺す前にそれまで監禁していた夫婦はちゃんと今日分までの「異常無し」の定期報告を管理会社にしてくれているから、今晩までは大丈夫。
車の運転・・・見よう見まねだが出来るだろ。
オレは楽観的に考えることにした。
オレらの中で、マトモに世の中に知っているのはオレだけだ。
グズもアイツも、なにも知らない。
グズは12才までに仕入れたエロ知識しかないし、アイツに至ってはなにも知らない。
管理人夫婦がオレとグズに喰われるのを不思議そうに見ていたくらいだ。
なにもしらない。
殺人も。
憎しみも。
・・・・・・セックスも劣情も。
オレの胸がいたんだ。
オレは襖を模した扉を開き、薄暗い部屋に入る。
常夜灯が一つ、柔らかい光を落としている。
だけど、本来ならそれでは人の形位しか見えないはずだ。
でも、今のオレの目は、おそらく常夜灯がなくても見える。
自分の目が変わってしまったことはわかっている。
オレにはもう昼も夜もない。
暗闇でも見えるのだ。
アイツはやはり布団からはみ出ていた。
ベッドを上げていたらベッドから落ちていただろう。
脚は完全にベッドの外の畳に投げ出されていた。
オレはためらい、迷ったが、そっとその脚を掴んで、ベッドに戻してやった。
パジャマの隙間で肌にふれてしまった肌の感触にオレは震えた。
触れたい。
でもオレは耐える。
頭の方に腰を下ろし、アイツを見つめた。
24才の男とは思えない無邪気な笑顔で眠ってる。
コイツは眠る。
オレ達とは違って。
コイツは人間を喰わない。
夜の中で自由に動けるわけじゃない。
でも人間じゃない。
それはわかる。
食いたくないからだ。
コイツは人間じゃない
オレもグズも、それがなんでだかわかる。
オレはやはり我慢出来ずにアイツの髪に触れてしまう。
そっと触れる。
触れるべきでないのはわかっているのに。
喰いたいわけではないのに、飢餓がつのる。
触れたい。
もっと沢山。
でもダメだ。
ダメなんだ。
触れたいのはそういう意味だけでもない。
眠る姿に恐怖感も感じている。
コイツは死んだように眠る。
どんなに揺さぶっても、怒鳴っても数時間起きない。
取り乱して昨日は目が覚めるまで抱きしめていた。
叫びながら抱きしめていた。
コイツだけ元に「戻って」しまったのか、とか。
色々考えた。
結局何もなかったかのように目をさましたけれど。
そこで確信した。
オレはコイツが好きなのだ。
出会ってまだ3日ほどなのに。
このオレが。
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