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取引 5
アイツに恋をしてた。
その理由もわかっていて、オレは自分に呆れる。
まさか、まさか、このオレオレが。
オレが軽蔑してきた、最悪な奴らと同じになるとはな。
幼い頃から犯されてきた。
かなり手酷いこともされてきた。
痛いことや汚いことをたくさん。
最終的にはダルマにされた。
普通はそうされたらならすぐ死ぬ。
絶望で。
そうやった死んだヤツも見て来た。
だがオレは死ななかった。
絶望以上に憎しみがあったからだ。
何も出来なくても呪い続けた。
良く生き残ったもんだと自分でも思っている。
オレは汚れたモノとして扱われてきた。
だからもっとシてもいい存在なのだと。
オレは知っていた。
オレを汚らしい欲望の対象にする連中は、美しい妻や子ども達を持っていた。
綺麗な大切なモノとして。
女のソコより、ここが好きなんだとまだ子どものオレの排泄孔を舐めまわす。
そして突っ込んでヘコヘコ動く。
オレを縛って首を絞めながら。
「これ、最高!!」とヘラヘラ笑いながら。
その次の日には美しい妻とレストランで食事し、愛を語るのだ。
子どもを縛って犯していたことをなかったことにして。
子供を寝かしつけるのだ。
大事なモノとして。
別のヤツはオレを殴りながら、裂けて出血したアナルを犯しながら笑う。
意識がなくなりかけたオレの喉に突っ込み窒息させながら、子どもの身体がどれだけ好きなのかをオレに語る。
そして、次の日の朝には自分の子ども達を車に乗せて遊園地に連れて行くのだ。
純粋に可愛いと目を細めながら。
オレとその子達は別だと。
オレは「そういうモノ」だから、と。
自分達がマトモだと思っていた。
社会的に成功していて、人格者で。
妻や子供も愛してる、と。
オレを犯す連中はそんな奴らばかりだった。
自分達は変態ではないと思い込んでる金持ちばかり。
自分達こそ汚れきった生き物のくせに。
美しいモノを自分が持っても良いと思うのだ。
それをオレはあざ笑ってきたのに。
そレをオレは馬鹿にしてきたのに。
それをオレは憎んできたのに。
オレが触ると汚れる、そう思うのに。
オレは髪を撫でてしまう。
無邪気な顔。
何も知らない顔。
この人の中には何もないのだ。
オレが生まれ、オレを作り、オレを育て、オレを蝕み刻んだ、あの汚らしいモノ全てが。
何も知らないから。
オレは汚いから、この人に触りたくなる。
もっと。
身体中舐めまわして、咥えて、育てて、嵌めたくなる。
グズにしてるみたいに。
オレのも咥えさせたい。
舐めて欲しい。
この人に教え込むのは簡単だろう。
セックスに関する罪悪感も何もない。
でも。
それ以上に。
オレは汚したくない。
この人を汚したくない。
生まれ落ちてはじめて出会った綺麗な人。
オレの指が震える。
長く触れすぎてしまったのだろうか。
この人は目をあけた。
「んっ?」
不思議そうに眠そうな顔をしたまま首を傾げる。
この人には見えないのだ、この暗さでは。
オレは安心させるためにこの人の枕元のリモコンで灯りをつけた。
オレの顔を確認し、この人は笑った。
「悪い、起こしたか?」
オレは微笑もうとする。
ぎこちないだろうか。
「・・・・・・君か。君の夢見てた」
この人は微笑む。
「オレの夢?」
声が裏がえる。
この人の夢なんかにオレが出てもいいんだろうか。
「海にいた。君と一緒に。ボクが止めても君は大丈夫だって海に入ってしまうんだ。心配したよ。海、見たことある?」
アイツは綺麗な目をオレに向ける。
「ないな」
高級ホテルに部屋に連れて行かれたり、別荘のパーティーの出し物になったりはしたが、そのホテルの近くにあったはずの海には行ったことがない。
遊園地もない。
学校もない。
ベッドか、鎖でつなぐどこかか、後で全員参加してくるショーの舞台がオレの居場所だった。
「ボクはある。連れて行ってもらったんだ。一緒に行こう。とても綺麗だよ」
自分の髪に触れていたオレの手に自分の手をこの人は重ねた。
オレは小さく震えた。
起き上がってきた。
オレの手を握りながら。
オレの肩に頭を乗せてくる。
他意はない。
この人は自分の母親や家族が自分にそうしてきたように、オレに触れてきているだけだ。
自分から触れることが出来なかったこの人は、人に触れることに抵抗が全くない。
母親が愛しい子どもの手を撫でさするように、オレの手を撫でる。
オレは震えてしまう。
オレより背が高い。
ちなみにオレ達の中で一番デカいのはグズだ。
以前はひょろ長いだけだった身体は、人を喰う度デカく大きくなってきている。
オレは最初に変化した以上には変わらないからこの辺りには個人差があるんだろう。
この人に寄りかかられたなら、その重みをのしかかられた感触に変えてしまう自分が嫌だ。
重なり交わるあの重み。
身体が震える。
欲しくて。
「なんで震えてるの?寒い?」
心配そうに言われた。
「大丈夫。オレは寒さはもう感じない」
オレはそう言った。
そう言ったのに。
オレを抱きしめた。
暖めるために。
胸に顔を押し付けらるように抱きしめられ、背中を優しく撫でられた。
暖かな腕につつまれ、背中を撫でる手が優しくて心地よい。
それは生まれて初めての感触で、オレは思わず悶えてしまった。
誰もオレをこんな風にただ包もうなんてしなかった。
優しくあやすだけのために背中を撫でてくれなかった。
シャツ越しの指が肌に甘い。
思わず顔をこの人の胸にこすりつけてしまった。
気持ち良くて。
そして、嫌だと思う。
優しい思いやりさえ、快楽に変えてしまう自分が。
「大丈夫?」
身悶えするオレにさらに心配そうな目を至近距離で向ける。
いつも笑っているような柔らかな唇を物欲しげにみてしまう。
舐めたい。
あの中に、舌を入れたい。
優しい目がふっと細められて、優しい顔が近づく。
なんだかボンヤリしている間に、唇に暖かく柔らかいものがそっと触れて離れた。
「おまじない。ママが良くしてくれた。具合が良くなりますようにって」
にこりと笑われた。
オレは呆然とする。
キス、された、のか。
オレは真っ赤になっているのが分かった。
そして息が荒くなるのがわかる。
ダメだ。
ダメだ。
「大丈夫?おまじないしたのに」
心配そうに顔を撫でられる。
その指先に震える。
めちゃくちゃ・・・気持ちいい。
オレは。
オレは。
好きな人に触ってもらったことなんかなかったわけで・・・。
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