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取引 8
「でも、人が死ぬんだぞ」
ガキが思わず口を出す。
ああ、そうだ。
お前はそれを認められない。
お前はそういう奴だ。
「そうね。でも、あの子がこの世界に持ち込んだことはある意味、弱者をいたぶることが好きな人達が望む通りなのではないの?
弱いのが悪いのでしょ。
他人を頼って生きている人間が気に入らないのでしょ?
なんでも自分の力で解決し、それができない人間死んだ方がいい、そう思っていたのでしょ?
殺した人達は、与えられた【魔法】を使ってその通りにし、同じことを要求しているだけ。
それに誰もがそんな考えが存在し続けることを認めていたのでしょ?
そんな考え方もある、みたいに。
そして今、それが本当はどういう意味なのか、この世界はやっと理解したのよ。
弱ければ喰われる。
そして、そんな弱い立場に自分がなることもあるってことに。
その考えが存在していたことを黙って認めていたのなら、そうされることも認めるべきよ。
そうされるのが嫌ならば、そんな考えの存在を認めないようにすべきよ」
老女は淡々と話す。
理屈の話になれば、ガキに出番はない。
ガキはそういうのは限りなく苦手なのだ。
「でも。でも、でも・・・」
ガキは言いかけ、何もいえない。
間違っている確信はあっても言葉にできないのた。
でもお前はそれでいい。
お前はお前のままでいい。
僕がいいからそれでいい。
僕は世界がどうなるかは本当は知ったことじゃない。
でも、僕は正義の味方、だからな。
パジャマはグールを作り出し、グールは人を喰い殺す。
それだけで僕が奴らを狩る理由は十分だ。
「あなたがどう考えようと、僕は構わない。でも、僕は【パジャマ】を捕まえて殺す。だから、教えてくれませんか?・・・パジャマは自由になった身体でどこへ行くかとか言っていませんでしたか?」
僕は老女に尋ねた。
「知ってても言いたくないとしたら?」
老女は儚い口調で、その目に狡い光を宿す。
楽しんでやがる。
僕も楽しい。
「乱暴はダメだ」
ガキが止めに来た。
もうこの女も悪者ではないとは言えないんだけどな。
この女はこの出来事を心行くまで楽しんでいるからだ。
「拷問してもこういうヤツは吐かない。だから剥いたりしないから安心しろ」
僕はガキを安心させる。
まあ、ただなんとなく、意味もなく全身の皮を剥きたくなるかもしれないし、刻みたくなるこもしれない。
人間が苦しむ様子を見るだけでも僕には楽しいからだ。
でも、それはガキに今言わなくてもいいことくらいは僕にもわかってる。
「でもあんたは教えてくれる。楽しんでるだけだからな。僕がパジャマを追う方が面白くなるからな」
僕は老女に言った。
色々言ってはいるが、この女は【パジャマ】達の味方てもない。
この女はこの女の立場で自分がしたいようにしているだけだ。
パジャマ達の存在が公になれはいいとは思っていても、パジャマ達の味方でもない。
女の望みは一応叶ってはいる。
情報の詳細こそ抑えてはいるけれど、無力な障害者に虐待していた職員が、どうやってだか復讐された、その情報は流れ始めている。
むしろ、犬達はその情報は流している。
人間がグールになることをどうごまかすか、だか、それに比べたならこれくらいは問題ないのだろう。
問題は「動けない人間がどうやって殺した」たが、またその辺は犬が頑張ってもっともらしいことをでっちあげるだろう。
女が世間に伝えたいメッセージは十分伝わりつつあるのた。
満足ではないかもしれないが。
女は決して、パジャマの味方ではない。
それは分かっている。
女が欲しいのはお祭りだ。
みんなが騒いで忘れられなくなる祭典だ。
だからパジャマ達のことを黙ることによって助けたが、次はこちらに力を貸してくれるはずだ。
「・・・・・・ママに会いに行くって、あの子」
老女は教えてくれた。
ほら、そんなもんだ。
「ご協力に感謝します。・・・・・・あなたには監視をつけさせてもらいますよ。いや、こちらが用意した施設に収容させてもらうかもしれない。あなたはグール、人間を襲う化け物になる可能性があるんでね」
僕は丁寧に言った。
老女はいつ爆発するかわからない時限爆弾みたいなものだ。
このまま置いておくわけにはいかない。
本人はグールにはならないと言っているが、それを素直に信じるわけにもいかない。
それに、どういうシステムで変身するのかのサンプルにもなり得る。
まあ、今まで科学者達は捕食者がらみのことではほとんどお手上げ状態なのだか。
「私を閉じ込める?見張る?・・・面白い冗談ね。私は生まれた時からこの身体に閉じ込められ、見張られてるのよ?」
老女は楽しそうに笑った。
それはその通りだったので僕も笑った。
声をたてて。
面白いなこの女。
この女は筋金入りだ。
ずっと閉じ込められて、見張られ続けても、決して己を手放さないファイターだ。
「おとなしくしていてくれますか?・・・ただ殺すにはあんたは惜しい」
僕は正直に言った。
「身動きできない老人に何が出来ると思ってるの?」
老女は消え入りそうな微笑みをうかべた。
僕はさらに笑う。
面白い女。
指一つ動かすのも大変で無力な、恐ろしい女。
この女のヤバいところはグールになれるからではないのだ。
「何も出来ないかもな。でも、もう何かしているかもな。でも、するな」
僕は言った。
これは命令だった。
女の微笑みは消えない。
でも、いい。
女はパジャマの行き先を教えてくれた。
さあ、狩りの始まりだ。
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