44 / 157
恋 3
俺は思わずソイツを抱きしめてしまった。
頑張れ。
頑張るんだ。
わかる。
わかる。
俺だからこそわかる!!
「そう、そうだよ!!俺達ならやれるって!!」
強く抱きしめてそう言った時だった。
「何をやるつもりだ、くそガキ・・・」
氷のような声がした。
あの人の声だった。
相変わらず、足音どころか、気配は全くしなかった。
俺は固まってしまった。
ソイツを抱き締めたまま。
これって。
これって。
俺が他の男と抱き合ってるってことになるんじゃないだろうか。
ヤバい。
ヤバい。
あの人は嫉妬深いのだ。
俺はゆっくり顔だけで声の方を向く。
全く表情のないあの人がそこに立っていた。
抱き合う俺達のベンチの前に。
綺麗な顔はまるで、作り物のようで。
何の表情もなかった。
目の冷たさはドライアイスのようだった。
身動き出来ずに、呼吸が止まった。
「ひぃ」
小さな悲鳴をあげたのは、抱きしめていたアイツの方だった。
「何をヤる気なの?、教えてくれない?」
あの人が笑った。
人の皮を剥ぐ時にあの人が見せる、ゾッとするような笑い顔だった。
美しいからこそ、あまりにも醜い顔
ヤバい。
俺はとっさにアイツを突き飛ばした。
それが正解だった。
何故なら俺の左肩から先は吹き飛んでいたからだ。
俺の左腕は血を吹きながら宙に飛んでいった。
あの人の右手が刀に変わってた。
あの人は俺ごとアイツを斬るつもりだった。
「逃げろ!!」
俺は叫んだ。
勘違いで知り合ったばかりのヤツを殺すわけにはいかない。
「でも・・・」
アイツは躊躇った。
いいヤツだな。
なおさら、殺すわけにはいかない。
あの人がゆらりと動いた。
普段なら間に合わない。
あの人の動きは読めないからた。
でも、あの人は嫉妬に我を失っているからこそ・・・。
俺は迷わずアイツの前に立ちふさがり、まるで見えなかったあの人の身体をこの辺にくるだろうという予測で突き飛ばした。
予測は正しかったが、俺の右手も肘から先が吹き飛んでいた。
斬られた。
全く見えなかった。
「逃げろ!!」
俺は叫び、アイツは身体を一瞬震わせて走った。
その姿を確認するより先に、アイツを追おうとするあの人の足を払う。
当然あの人はその足をなんなくかわす、そこに俺は斬られて血を流す肘までの左腕を振った。
吹き出す血はあの人の顔にかかる。
あの人が一瞬目を閉じる。
そこを足を引っかけ今度は倒して首に足をからめた。
絞めたところで効かない。
あの人は酸素が無くても死なないからだ。
呼吸さえ必要ない。
でも、苦しくはあるらしいし、ちょっと止めれたらいい。
とりあえずアイツを逃がせたら良かった。
こんな小手先が通じるのは、どんな時でも冷静なあの人らしくなく、めちゃくちゃ怒ってるってことだ。
「お願いだから話を聞いて」
俺はすぐに足を解いてあの人に叫んだ。
膝をつき、斬られた両腕から血を流しながら。
あの人はゆっくり立ち上がる。
もう、アイツを追う気はなくなってるらしい。
「お願いだから!!」
俺はあの人の凍った瞳をみつめ、懇願する。
人が集まってくる。
あの人は刺し殺すような目を俺に向けた。
そして苦々しく舌打ちした。
そして、言った。
「行くぞ」
凍りつくような声だった。
ともだちにシェアしよう!