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恋 14
あの人はゆっくりと目をあけた。
暗闇にいきなり明かりが灯されるようにその目が開いたとたん世界が変わる。
空気が変化する。
その瞳に溢れるエネルギーに圧倒される。
その目があの人を覗き込むように見ているオレを認めて笑った。
「朝?」
無邪気に尋ねられる。
「いや、まだ夜だ」
オレは髪を撫でるのを止めない。
この人は撫でられるのが好きだから、そう言い訳する。
でも確かに撫でられる猫のようにあの人は目を細め気持ち良さそうにしている。
「ママは元気になるかな」
あの人はオレに不安そうに聞く。
オレは頑張って笑顔を作る。
こういう風に、安心させるための笑顔をオレは持っていないのだ。
「なるさ。オレやグズを見てみろ。こんなに元気になっただろ。あんたの母さんも元気になる」
オレは少し本当に笑ってしまう。
まあ、ちょっとばかり人を喰ったりはするようになるけどな。
それは面白い冗談だった。
言わないけど。
でも、オレは嬉しかったし化け物になれて。
人間なんてやめたかったからた。
何、この人の母親もすぐなれる。
最初はグズも動揺していたが、今は受け入れている。
アイツは明るいもんだ。
「あんたの母さんもきっと気に入る・・・人間は食ったら美味しいからな」
オレは楽しくなってわらう。
仲間が殖えるのはいい。
「ニワトリ食べたり、魚を食べるのと同じ?」
アイツは聞く。
「そう。ママは食べてただろ、命を。それと同じ、何も変わらない」
オレはアイツの理解に合わせてやる。
ずっと流動食を胃に流し込まれて生きてきたコイツにはものを食べるという意識すら薄い。
人が鳥を食べることですら、コイツの中では驚きなのだ。
水の中で自由に生きている魚。
それを食べる人間。
この世界で生きている人間。
それを食べるオレ達。
コイツの中ではたいして変わりがないのだ。
命を食べるという意味では。
死の意味さえコイツの中では違うのだ。
動けなくなることも、存在がなくなるかもしれないことも、どうなるのかがわからないことも、コイツの中ではただの日常だったのだから。
だから、コイツはオレが人を食ってもオレを嫌わない。
例え、オレがコイツを喰ったとしてもコイツはそれを受け入れるだろう。
命を守るために命が必要だからしかたない。
アイツにとって喰うってのはそういう意味でしかない。
「そうだよね。ママは喜んでくれるよね」
アイツは起き上がり、オレに抱きついた。
オレは身体を震わすがそのままアイツに抱かれる。
これにどんな意味もないからだ。
アイツは嬉しそうにオレの頬に自分の頬をこすりつける。
母親にされてきたことそのままオレにしているだけで他意はない。
いや、自分から腕を伸ばして人に触れることさえなかったコイツには、人に触れるのが面白くてたまらないのもあるだろう。
オレは心臓が爆発しそうになりながら、アイツの胸に抱き込まれる。
ヤバイ。
胸が痛い。
「あったかい」
アイツは嬉しそうに言う。
「一緒に寝よ?」
目を覗き込まれ、言われ、オレの下半身が疼く。
「駄目。オレ達は寝ないから」
そうとだけいう。
息が荒い。
逃げたい。
でもこの腕の中に止まりたい。
わからなくなる。
「もう少し、寝てるといい。あとで風呂に入れてやる」
オレはやっとのことでいう。
グズを使う。
今こそ、グズをつかう。
この部屋から出たらグズのを突っ込んで、この身体の欲望を満たしてやる。
あんだけやったのにもう、これだ。
やるだけやったら・・・隣で寝てもいいだろうか。
寝るだけ。
「うん」
アイツは素直に頷き、オレの唇にキスを軽く落とした。
オレはまた震えてしまう。
「君とはしてもいいんでしょ?」
ふわりとアイツが笑ったから、胸の奥が痛んだ。
こんな痛み、知らなかった。
痛みが甘いなんてことも。
他の人にするな、と言っていらい、何かあったらオレにキスしてくるようになってしまったのだ。
そんな子供だましのキスで、オレは軽くイっていた。
「そうだ、オレ以外とはするな・・・」
「うん。ママと君だけ」
軽く抱き締められた。
オレはこの人の胸に顔を擦り付けてしまったかもしれない。
オレの淫らな身体はもう乳首さえビンビンに勃ちあがっていた。
ああ、オレは汚い。
そして、アンタは綺麗た。
「ママはアンタが元気になって嬉しいし、もうママは大丈夫だ」
オレは断言した。
オレには分かってた。
この人の母親はとても幸せになるだろう。
それはコイツの思っているような意味てはなくても。
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