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増殖 2

 私が彼らの部屋に入るのを躊躇したのは初めてかもしれない。  私はドアの前で何度か吐息をついた。  このドアをくぐってからの態度如何によっては私は生きてこのドアを開けて外へ出れないかもしれない。    マズイ。    それだけはわかる。    少年には秘密だが、少年と男のセックスなど何度も見ているし、聞いている。  それはあの男も承知の上だ。  危険過ぎるあの男の言動はあの男の自宅以外全てモニターされているのだ。  初めて少年をあの男が抱いた時も、その様子を頭を抱えて聞いていたのは私だ。  あの時は焦った。  一層そのまま少年をころしてくれた方がいいと思った。  連れ帰り自分専用の「穴」にすると言い出して・・・そのために色々偽装に奔走するはめになった。  いくら血も涙もない私でも、高校生を殺人鬼の性奴隷にするのは流石に流石に・・・でも、私はそうしたのだが。    まあ、罪悪感から少年には約束をしてある。   少年がどうしても男に耐えられなくなったら、少年を殺してやる、と。    てもまあ、男が少年を気に入る以上に、何故か少年が男に惚れきっている。  全く理解出来ないか、少年はあの殺人鬼を綺麗なお姫様か何かだと思っているようだ。  残酷で狡くて、人の苦痛と人を陥れることを何よりも好む、悍ましい生き物を、「可愛い」などと言うのはあの少年だけだ。  一見マトモに見えるが一番狂ってるのは少年ではないか、と私は思っている。  公園での騒ぎでもそうだ。  少年がどこかの同じ年頃の子と仲良く話していて、話が盛り上がって思わず肩を抱いたのだ、と少年を監視していた部下から報告を受けている。  その現場を少年が帰ってくるのが遅いので、探しにきたのを見た男が発見した。  男は激怒した。  まあ、これはわからなくもない。  「恋人」(男も今ではそう認めている)が他の男と親しそうにしていたら怒りたくはなるだろう。  だが、あの男はその場で殴る怒鳴る(それだけでもどうかしているが)ではなく、少年の両腕を切り落としたのだ。  何の躊躇もなく。  首を斬らなかったのは僅かにある理性のおかげだろう。    だが、あの男は最初から壊れている。  そんなことではもう驚かない。  私が驚いたのは、私達に騒ぎのあれこれを押し付けて(思い出しただけで腸が煮えくり返る)ホテルの部屋に戻った少年が、男に謝ったことだ。  少年は男の心を傷つけたことを心の底から謝り、男を慰めようとしていた。  傷つけるつもりのなかったことで、繊細な女の子を傷つけてしまった恋人のように。 両腕を斬り落とされたのに、だ。  少年、それは繊細な女の子ではない、化け物だ。    人の苦痛を喰らう化け物だ。  お前の目には何が見えている?  間違いなく少年には我々とは違うものが見えていて、それは恋は盲目なんてレベルではない。  まあ、それはいい。  少年が一番狂っていてもいい。  それは誰にも害はなく、少年は確かにあの凶暴な化け物を懐柔しているのだからそれはいい。    私がこのホテルの部屋のドアを開けるを躊躇っている理由ではない。    少年が男に抱かれるだけではなく、抱いたことかあることは知っていた。  少年が言ったわけではないが、彼の態度はわかりやすい。  ものすごい上機嫌で、空まで飛びそうになっていたしな。  こちらとしては怖ろしい過ぎて想像もしたくない。  少年が男に抱かれるのは、だ。  まあ、何だ。  まあ。  ・・・・・・少年は決して女性らしい姿もしていないし、どんどん逞しくなっていくにも関わらず。  私のチームの全員が少年に好意的であるため、そして、万が一男に聞かれたら困るので誰も表立って言わないが。  抱かれている少年に欲情してしまう者は少なからずいるし、まあ、私もないとは言わない。    あの男に抱かれる少年はとても扇情的なのだ。      そう思うことをあの男に知られたら生きてはいられないが。  だが、あの少年があの男を抱くのか。  そのことには凄まじい違和感しかない。  だが、それは事実だ。  そして、男の声こそ聞こえなかったが、間違いなく少年がこの部屋で先ほどまで男を抱いていたのも事実だ。  そして、私が男が抱かれたことを知っているということを、当然男も知っている。  問題は、だ。  私がこれからこの部屋に入り、どういう態度をとるのかによって、私の言葉一つ、視線のそらし方一つ、咳払いの一つのタイミング次第では、私はあの男に殺されるってことだ。  八つ当たりで、だ。  あの男は少年に抱かれた、そんな自分を認めないだろう。   少年を私の目の前で犯しても平気だろうが、自分がそうされるのは死んでも許さないだろう。   それを見た者も許さないだろう。  なんて理不尽な男だ。   だが、そういう男だ。  油汗がでる。     相手は恋人の手足を機嫌次第で切り落とすような男だ。  恋人ですらそうなのだ。  隙あれば殺そうとしている私ならもっと簡単に切られる。  だが。     仕事だ。  仕事なのだ。   男に「犬」と言われる通り、私は国に飼われている以上、仕事を遂行するしかない。  ため息をつき、私は部屋のドアをあけた。  仕事をするために。            

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