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増殖 6
「グールは脳を損傷したら死ぬが、出来るだけ殺すな。生きて捕らえたい。捕食者に対する人質になるしな。色々聴きたいこともある。人質になってる奴は・・・まあ、好きにしろ、どうでもいい」
あの人が肩をすくめて俺に言った。
俺は苦笑する。
本当は死んでしまってもいいと思っているけど、俺の前だからそうは言わないのだ。
この人なりに俺に気を使っているのだ。
俺はグールを狩りに行く。
フロアの様子は見取り図をみせてもらった。
おそらく、奥の部屋に人質と立てこもっているはずだ。
フロアに上がる階段の前であの人と俺は立っていた。
あの人はここで防犯カメラを見ながら俺に指示を送る。
「人質も助けるよ」
俺は言う。
人質を助けて、グールを捕まえる。
「よし。でも、わかってるな?お前がグールごときに遅れをとるとはおもわないが・・・分かってるな?」
あの人が俺の髪を撫でながら言う。
綺麗な顔が俺に近づけられて、俺はこの人にときめいてしまう。
「絶対に死なないこと」
俺は答える。
この人は危険な場所に俺を送り出す。
でも、それは俺を信用しているからだ。
だから俺はこの人の期待に答える。
絶対的な約束がある。
「死なない」こと。
捕食者以外には殺すことが出来ないあの人とは違い、従属者である俺は首をはねられたなら死ぬ。
俺はあの人に死ぬことを許されていない。
俺はこの人のモノだ。
だから絶対にそれは守る。
「いい子だ」
あの人が薄く笑って俺にキスをした。
俺もあの人の甘い唇を味わう。
柔らかい唇の感触、唾液の味。
暖かい口内。
歯列や口蓋を舌で探り、その舌をからめ合う。
スーツやスーツの仲間がいるから恥ずかしいと云えば恥ずかしいのだけど、まあ、もうキス位はいいかな、と。
というより、俺だってこの人に触れたいのだいつだって。
ああ、あんたを抱きたい。
だから絶対に死なない。
「後で可愛がってあげるからね」
あの人が耳もとで囁いた。
身体は思わず反応していた。
ピクリと震えて、後ろの穴が疼いた。
いや、でも。
可愛がってもらうより。
俺はあんたを抱きたいんだけどな。
俺はちょっとため息をつく。
「文句があるのか」
あの人に睨まれた。
いや、全然。
また・・・機会を待ちますよ、はい。
あんたに触れるなら、それはそれで。
「行ってくるよ」
俺は愛しい恋人に言った。
この階段をあがり、封鎖されたフロアにグールがいる。
さあ、捕まえよう。
俺は階段を駆け上がった。
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