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増殖 7

 俺は階段を駆け上がり、フロアと階段を遮っていた非常階段の扉を素早く開けた。  ばんっ  壁に叩きつけられた扉は大きな音を立てた。  同時に宙に飛び出す。  ドウッ  ドウッ  ドウッ    銃声がしたから、銃弾が飛んできたのわかる。  気にしない。  そんな事では決して止まらない。  一足で宙を跳び、宙を回転しながらフロアを一瞬で見て、状況を把握する。   廊下にはロッカーやベッドが放り出されていて、何層かのバリケードが作られていた。  スーツの部下が作ったのだろう  そのバリケードの隙間からグールが撃ってきているのだとわかった。  グールがバリケードの奥にいることも確信した。  宙を跳ぶ俺を銃弾が追う。  着地し、一番手前にあったロッカーを積み上げた陰に隠れる。  グワン  グワン  グワン  グワン  いくつものロッカーが重なってるので、貫通はしない。  ロッカーに穴があいていく音がした。  改めて状況を確認。  最悪なのは、グールが持っている銃は警官のリボルバーなのではないということ。  オートマチックの9発撃てるヤツだ。  それを知ってるのは俺はスーツの部下達と訓練をしているからだ。  その銃は殺傷能力も、装弾数も警官が使うものとは全く違う。  おまけにスーツのチームは予備の弾倉をいくつも持ちあるいている。  人間ではない化け物相手に戦うことを前提としているからだ。  あくまで戦うのは俺やあの人だとしても、人間ではない化け物との戦いを援護をする以上強力なものを持ち歩いているのだ。  オマケにあの人の話ではグールはスーツの部下の能力を奪っているらしい。  スーツの部下はえり抜きだ。  自衛隊や警察の中から、性格や行状に問題はあっても戦闘能力の高さを買われた人達ばかりだ。  今はあの人のワガママに振り回されて酷い目にばかりあっているが、元々は自分が周りを振り回していたけれど、能力があるからギリギリ組織を放り出されなかったような人達だ。  腕は一級品だ。  その腕は今グールのものだ。  まあ、ここまでが状況の最悪な部分。  俺が人間なら絶望してるかも。  でも、俺は平気だ。   俺は速い。  誰よりも。  そして、負けない。  あの人が望むことを叶える。  あんたか正義の味方であるためなら、俺は何でもしてやる。  それが俺の望みでもあるからだ。   捕食者を倒すのはあの人。  でも、それ以外のあの人の邪魔をするモノを倒すのはこの俺だ。  さあ、行こう。  俺は止まらない、たがやみくもに前進はしない。  俺はまた駆ける。  積まれたロッカーをものともせずに跳ぶ。  だが、動きを予測させないよう、壁を蹴り、天井を腕で押して跳ね返り、着地点を予測させないことを忘れない。  飛び跳ねるピンポン玉のように俺は瞬く間にポジションを変えて動いていく。  狙いを定められるより先に動くことで俺は銃弾をかわす。  俺のいたすぐ後を正確に銃弾が追ってくるところから見て、コイツの腕は正確だ。   俺じゃなければ、撃たれている。  何より、連射出来るスピードがおかしすぎる。  ほぼ当時に二発飛んできたりする。  二丁の拳銃を同時につかっているのだ。  喰われたスーツ部下の物だろう。  俺は跳びながら唇を噛み締める。  喰われた人は両手撃ちができた。  その能力をグールは使っているのだ。  俺は射撃を習ったこともあった。  少しクセはあるけどいい人だったのだ。  俺に射撃を教えてくれたその人には、銃を持った左手の薬指に指輪があった。  それについて聞いたとはなかった。  でも、それはまだ愛する人が殺されたとを知らない誰かがこの世界のどこかにいるってことだ。  俺の胸は痛んだ。  だからグール、俺はお前を許さない。  俺は銃弾より先に駆け、跳び、最後のバリケード代わりに積まれたロッカーを飛び越えた。  宙から見下ろす視界に、二丁の銃を両手で構える人影が映る。  銃口は2つとも俺に正しく向いている。  でもその銃は弾切れだ。  俺は何発なのかを数えてた。  どれだけ早く弾倉を交換できるのだとしても、今からでは遅い。  俺は落ちていきながら鉈を振り上げる。  殺さない。  生かして捕まえるのが俺の使命だからだ。  ただ、片手を切り落としながら、噴き出す血を浴びながら、俺は間近でグールを見て驚いた。  そこにいたのは。  肩までの髪を振り乱し、絶叫する、とても可愛い女の子だったからだ。  華奢で、小柄な。  俺とそう変わらない年の。  ええ?  グールは・・・・70過ぎのお婆さんだったはず・・・。  ええ?  ええ?  ダブダフのジャケットをパジャマの上から羽織ってて、これは死んだ人のだ。  何故それを羽織っているのかはわかる。  あの人もそうだけど、スーツの仲間達も服に色々武器を仕込んでて・・・。  俺はダメなことをしてしまった。  俺はビックリしすぎたのだ。  こんな場所に相応しくない女の子に驚き過ぎたのだ。  あの人に言われているたのに。  俺達の敵は、小さな可愛い子供の姿やか弱い女性の姿をしていることもある、と。  俺はわかっているつもりだったのに、血を流し叫ぶ女の子の姿に気をとられすぎてしまった。  だから。  女の子が足首に仕込んでいたホルスターから銃を抜くのに気付くのに遅れてしまった。  スダンッ  至近距離で極めて殺傷能力の高い銃に、頭を撃ち抜かれた。  俺の頭は弾き飛び、意識がとぎれた。        

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