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増殖 8

 目覚めた時は,まだ意識がぼんやりしていた。  いくら俺が不死身でも、脳を撃たれると動けなくなる。  再生するまでは。    あの人なら瞬く間に再生してしまうんだろうけど。  従属者である俺の再生速度はあの人程ではない。    開けた目の前に、2つの腕が落ちているのが見えた。  細くて美しい、女の腕だ。   ん、二本?  一本しか切り落とした記憶はないが、脳がやられた後も俺の身体は動いてくれたようだ。  俺の脳より俺の身体はよほど頼りになる。  俺は頭を吹き飛ばされながらも、もう片方の腕を切り落としたのだ。    助かった。   助かった。  俺は首を切り落とされない限り、脳がはじけ零れたぐらいでは死なないが、グールは非常に力が強い。  片腕でも俺の首をねじ切れただろう。  そうなれば、もう、確実に死ぬ。  腕がなかったから・・・。  俺はホッとため息をついた。  身体はまだ動かせないが、目だけは動く。   俺はグールを確認するため探す。  後頭部は見えないけれど、飛び散った俺の頭の破片達は蠢きながら俺の頭へと帰ってきてくれているだろう。  そう、言いたくないが、多量のウジがたかるかのように。  うぉぉぉぉう  うがぁぁあぁ    凄まじい声がした。  視線を動けるだけ上げる。      そこには血まみれになりながら、喉を垂直に立てて叫ぶ女の姿かあった。  美しい柔らかな茶色の髪は血に濡れ、赤黒く変色し、白く繊細な顔は有り得ないほどに、開かれ歪んだ口や、見開かれ血走っている目のため、悪鬼のようだった。  そこには俺が思わず見惚れた、  俺、女の子はダメなんだけど、でも綺麗なモノは綺麗だから見とれるてしまうだろ・・・・  とにかく、その姿はなかった。  女は叫ぶ。  まるで子供を生むのを耐えるかのような声・・・。  俺は気付く。   俺が切ったはずの腕から、もう血は流れていなかった。  俺が切り落とした腕の付け根の断面は、骨や肉や血管がむき出しになっているのではなく・・・・何かが盛り上がり蠢いていた。    再生してるのか?  俺のように切り離された身体が戻ろうとしてるのか?  いや、腕は床に転がったままだ。  俺やあの人の身体は、どこかに閉じ込めて置かない限り、触手のようなものを生やして歩いてでも俺達の身体にもどってくる。  だが、このグールは、グール達の再生の仕方は・・・。  俺は気づいた。    女の腕から生えてきているのは指だった。  まるで、身体の中にめりこまされていたように、指が蠢きながら肩の断面から少しずつ伸びていく。  うぉぉぉう  うぉぉぉう  女が叫ぶ。    指から手首までが、肩の付け根から出てくる。  女は自分の腕を産んでいた。  切り離された肩の断面から、自分の腕を産み出そうとしていた。  俺は焦った。  俺の身体が動くのが先か。  女の腕が生えるのが先か。    人質は、もう一人のスーツの部下は、おそらくこの奥の部屋にいる。  生きているのならば。  助けないといけない、でも俺の身体はまだ見ることしか出来ない。  脳が壊れてるから。  アアァ  うぐぉぉ  女は呻く。  手を産むのは相当苦痛を伴うらしい。  非常カメラの映像で見たグール達は銃弾をいくら受けても顔色一つ変えなかった。  だけど、これはつらいらしい。  グールは手足を切り落としても、また新たに身体から生やして再生する。  俺達とは違う。  これは大きな情報だ。  しかし、それも、生きて帰らないと意味がない。  おそらくあの人は、見ている。  今の俺が映っているかどうかはわからない、なんせバリケードが多すぎるから。  でもこのフロアの非常カメラを見ているだろう、それに音声はスーツ達がなんとかして拾ってくれている可能性もある。  多分あの人、めちゃくちゃ怒ってる。  今回俺は女の子に驚いて、不始末の結果こうなったので、あの人からのお仕置きは間違いなく、正直生きて帰るのも憂鬱なんだ。  泣いて謝っても許して貰えない。  めちゃくちゃに犯される。  イキっぱなしにされて、何がなんだかわからなくされて怖いのに、すがりつくことさえ許して貰えない。    後ろから犯され続ける。  許して欲しいと叫びながら。  あれは怖い。  本当に怖い。  でも死ぬわけにはいかない。    死んでたまるか!!  まだ俺はあの人を抱きたりないんだからな!!  死にそうな場面で俺に絶対的な力をくれるのは、あの人を抱いてその奥にまで入ったあの時の記憶なのだ。    あの鬼畜なあの人の可愛い可愛いあの姿なのだ。    エロパワーは最強だ!!  女の腕はもうほとんど出てる。  俺は必死で指先に力を入れる。    つま先に力をいれる。  動け!!  動け!!    俺は念じ、動けるようになったら一瞬で跳ね上がるために備える。  グールは腕が出来次第、飛びかかってくる。  右手の指先が動いた。  右足のつま先も動いた。  ああ、でも左側がまだ・・・。    でも、グールの腕は完全に生え終わろうとしていた。  ぐふう  ぐふぅ  ぐぎぃ    グールは吠えた。  血の涙を流し、ひどく延びた犬歯、もう牙としか言いようがないものを裂けるかのように開かれた口から見せながら、俺を振り返った。  腕は生え終わった。  生えた腕には鋭い爪があった。  目は光を乱反射していた。  グールが跳ねた。  俺を喰い殺すために。  だが、俺の左手と左脚はまだ動かない。  

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