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増殖 11
俺は跳ぶ。
いや、飛ぶ。
宙を真っ直ぐに。
床を蹴り上げる俺の脚は、俺を真っ直ぐにグールへ向かわせる。
よけられない。
よけられるわけがない。
俺は速い。
速いのだ。
華奢なパジャマを着たその女の子の身体の、柔らかそうな胸に、俺は山刀を思い切り突き立てた。
ぐあぁぁぁ
グールが叫ぶ。
顔を歪めて。
俺の腕にその鋭い爪を立てて引き抜い抜こうとするが、爪を食い込ませ血を流すことはできても、それ以上は無理だ。
グールの凶悪な表情は消えて、そこにいるのはか弱い華奢な女の子にしか見えなかった。
ただ、その爪は俺の肉に深く食い込んではいたけれど。
そうか。
やっぱりな。
俺は納得する。
「心臓を壊されたなら、お前達もやはり平気じゃないんだな」
俺は優しく言った。
俺の山刀は心臓に刺さっているはずだ。
脳を壊すわけにはいかない。
手足を斬っても再生する。
どうにか動けなくする方法を・・・と考えたのがこれだった。
でも前ほどの力はないがまだ動いている。
俺よりもグールははるかに丈夫なようだ。
俺はさらに刀をめり込ませた。
グールがめり込ませた爪が肉を裂くが気にしない。
刃が全て入り込んだ。
でも俺は押し込むのやめない。
山刀の柄を肉の中にズブズブとめりこませていく、そしてしまいにはその杖を握る手、それから腕をそのが身体の中へと。
脈打つ身体の中に押し入っていく。
「ああっ!!やめて!!」
女の子が身体を貫かれながら叫ぶ。
力つきた手が腕から離れ、宙をつかむようにうごく。
かくん、かくん、と身体が痙攣していく。
だけど俺はその身体に腕をねじ込むことを止めない。
ズブズブと入っていくと、柄を掴む手に何かがあたる。
脈打つそれ。
心臓だ。
俺が掴んだ柄のところまで貫かれている。
そして、俺はその心臓を体内で掴んだ。
「ああっ・・・うぐうっ・・・もう、止め・・・そこは嫌・・・ああっ!!」
グールは、いや、女の子は身体を痙攣させ、目を見開く。
心臓を握られて。
唇がだらしなく開いた。
・・・まるで、俺がこの子を犯しているみたいじゃないか。
ちょっと焦る。
中にめり込んだ俺の腕に、女の子が跳ねるように震える振動が、まるで違うやり方で違う部分で身体の中に入った時に感じる感触を思い出させたからだ。
いや、ちがうって・・・。
俺には大事な恋人が・・・。
犯してないって・・・。
俺は思わずあの人か見てないか見回してしまった。
なんか怒られそうで。
違うからね。
これは、違うから。
俺はあの人に心の中で叫ぶ。
女の子とシたりしない。
俺、ゲイだし。
この後犯されるのは俺だし!!
でも俺はゆっくりと心臓をその身体から引き抜いた。
山刀と一緒に。
掴みだした心臓は、俺の手の中で裂けたまま脈打っていた。
どくん
どくん
と。
「返して!!」
グールが床に倒れながら泣き叫ぶ。
胸から血を流し、俺に握られた心臓へ手を伸ばし、顔を哀れに歪め、涙を流す。
か弱い女の子にしかみえない。
でも、俺はもう油断しない。
この子は人を食うグールで、それに元々は本当は70過ぎの女性だったはずなんだ。
外見は何の意味もない。
化け物になったんだ。
人に害をなす、生き物なのだ。
俺はもう会うことはない、俺の両親や友人、大事な人達を思い出す。
躊躇しない為に。
俺はもう戻れない。
でも、俺の大事な人達の世界を守るんだ。
俺は心を鬼にした。
俺は彼女の中から引き出したばかりで、濡れてる俺の手の中にある裂けた心臓を握りしめる。
手ので生き物が苦しんでいるかのように心臓が手の中で蠢いた。
「ああっ!!」
彼女が叫ぶ。
背中をそらせて床でのたうつ。
どういう仕組みになっているのかわからないが、心臓に対するダメージは身体から取り出されていても有効らしい。
「ううっ・・・」
女の子の顔でグールが泣く。
今の彼女は俺とそうかわらない20才過ぎ位なのだろうけど、泣くとその顔は幼く見えた。
幼女のようだった。
もう、わかっているし、油断もしないが、それでも胸は痛んだ。
くそっ。
「諦めて投降しろ。命は助かる」
俺はグールに言った。
おそらくスーツ達はグールを殺さない。
実験や研究にまわされるだろうが。
「誰が・・・、するものか!!」
グールは丸く身体を縮めて痛みを耐える。
傷ついた動物や、幼児のような姿に俺はつらくなる。
何故、化け物ならば化け物らしい姿でいてくれないのか。
でも、俺はさらに心臓を握りしめた。
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