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増殖 13
眠るアイツの髪を撫でていた。
ベッドの枕側にすわり、柔らかい髪を撫で、頬を撫でる。
撫でるだけだ。
それ以上はしない。
アイツは眠る。
例によって揺さぶっても起きない、謎の眠りだ。
起きてこない安心から、コイツの顔を見つめてしまう。
24才だと言うが、10代でも通る。
表情の透明さはまるで子供のようだから。
でも、身体は確かに大人の男のモノだ。
洗ってやっているからしってる。
これ見よがしではないけれど、オレよりは一回りは大きな身体は綺麗な筋肉に覆われている。
オレを抱き込めてしまえる広い胸があることも知ってる。
たまに甘えたように抱きついてくるから。
洗ってやってる最中に。
犬か何かにじゃれるみたいに。
もちろん身体の隅々まで見てるのだ。
かなりアソコも立派なことも知っている。
もうコイツは自分で自分の身体を洗えるんだが、オレはアイツの身体を洗うことを止められない。
人に洗われるのになれきったアイツが嫌がらないのをいいことに。
まだ洗ってやっている。
触れたい、のだ。
もちろん、変なさわり方なんか絶対しない。
そんなことはしない。
グズでそんなことは代用できる。
舐めたり扱いたり、咥えたりとかは。
アナルに挿れて、中を擦ったり奥を突いたりも、グズを使えばいいだけだ。
アイツが毎日朝と夜にそっと唇にしてくれるキス、それだけでいい。
キスともいえないような優しい触れ合いだけで。
柔らかい表情で子供のように眠るコイツのパジャマを引き剥がして、その性器を舐めて、扱いて、育てて、オレのアナルに突っ込みたい、と瞬間的にどんなに思ってもしない。
子供の髪を撫でるように。
ただ優しく撫でる。
撫でるだけだ。
性的な意味もなく人に触れるなんて、長くなかった。
もう小学校に入る前からオレの身体は変態達に使われてきたから。
ただ愛しくて触れるなんて、知らなかった。
快楽や欲望じゃない接触なんて。
コイツに変なことは教えたくない。
あんなの知らなくていい。
優しく、ただ愛しさだけて触れられる感触だけ知っていて。
優しく触っているふりをした、欲望に汚れた指からの、皮膚を腐らせる感触など知らなくていい。
オレは絶対にそういう風にはお前には触らない。
「可愛いねぇ」そう言いながら、玩具のようにオレを触った奴らみたいなことをアンタにはしない。
ただの愛しさだだけで触りたい。
何も知らないこの人が愛しい。
目覚めたら、オレを見て。
綺麗な目でオレを見て。
アンタの目にだけはオレは綺麗に映る。
アンタは汚いことを知らないから、オレが汚いなんてわからないから、オレを綺麗なものと同じように映す。
誰もがオレを性器のように見る。
ああ、そうだ
オレはそういうモノとして生きてきたから仕方ない。
オレを慕ってくれているグズでさえ、オレとエロを別に分けては見ないだろう。
アンタとしたいと思う。
でもアンタがオレに欲望も嫌悪もなく、素直な好意を向けてくれることがたまらなく嬉しい、オレとすることなんて考えもしないことが嬉しい。
あのひどい場所で、子供のオレに優しくしてくれた女達でさえ、オレとセックスを切り離しては見なかった。
オレは犯される哀れな子供でしかなかったから。
何も知らないアンタだけが、オレに哀れさも、惨めさも、欲望も、恐怖もなく、ただ素直な好意をくれる。
オレをこんな風に見てくれるのは・・・アンタだけだろう。
アンタだけは。
アンタだけは。
綺麗なままで。
その時だった。
キシャーン
尖った高い音がした。
ベランダのガラスが砕け散った。
オレはとっさにこの人覆い被さり、この人を守る。
窓ガラスを破って彼女は入って来た。
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