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追跡 3

 とりあえず、俺はあの人をベッドの上に運んだ。  俺は俺の身体の熱を持て余していた。  あの人にさんざん煽り立てられたのに、当のこの人がこの有様じゃ。    俺は身悶える。  自分でできるだけのことをとおもって、自分の性器を擦りたてるけど、ダメだ。  一応射精はしたけど、熱は収まらない。  足りない。   こんなのじゃだめだ。  中を擦って、貫かれたい・・・。  「ううっ」  俺は辛くて泣く。  酷い。  そう思って、あの人を腕に抱きしめる。   酷すぎるよ、あんた。  ここでこんなにして俺を放置すんの?  恥ずかしいことまで散々言わせたくせに。    抱きしめて、頬をすりよせる。      あの人は服すら脱いでなかった。  俺は全裸にされているのに。  しかも自分で脱ぐよう強要されたのに。    あの人はズボンの前をくつろげただけで、趣味の良いシャツと仕立ての良いスラックス姿だ。  本性さえわからなけらば、上流階級の品の良い美しい青年にしか見えない。 遊び慣れた感じさえ上品な。  でも、くつろげたズボンから飛び出したそこはまだ濡れ、勃起していた。  清らかですらあるその寝姿に、それは似つかわしくないほどいやらしくそそり立っていて、俺は唾をのんだ。   待って。    待って。  俺の身体の熱が一気に冷めていく。  この人は目覚めない。    俺が何をしても目覚めない。  そのことに気付いたからだ。  俺が何をしても。  俺が中に入っても。  俺が舐めまわしても。  俺が思い切り腰を打ちつけても。  この人は目覚めない。    さっきまでの熱とは違う、また違う意味の飢えが俺の中に満ちた。    俺はいつだって・・・。  あの人の中に入りたい。  あの人にどんな風に犯されている時でさえも。  俺の指はあの人のシャツのボタンを外していた。  シャツをはだけさせれば、綺麗な筋肉のついた細身の身体が露わになる。  どうみても男の身体なのに、女よりもいやらしい。  それがわかるのは、俺は男にしか興味がないのに、この人の身体は男の身体よりもいやらしいからだ。   男よりも男以上にいやらしく。  女よりも女以上にいやらしい。  美しいモノは性別を超越するのを痛感する。  服を着て黙って立っていたならば、完璧な美術品のように美しいのに、裸になったこの人は凶悪なほどにいやらしい。  男でも、女でも、この人にイカレてしまうだろう。  残酷に殺されるとわかっていても、この人の腕の中にそれでも堕ちていった人達はいたのだろう。  この人はセックスと同じ位、人を殺すことや苦しめることが好きだから。    殺されるとわかってて、それでも止まれない人達はいたはずだ。  俺みたいに。  俺は死なないから、殺されないけれど。    それに拷問こそしないけど、あの人の酷い抱き方は普通の人間なら死ぬ可能性は十分ある。  でも、今は。  前をそそり立たせ、天使のような顔で眠るあの人の身体を俺は撫で回していた。   確かめるように。  こういう風には・・・いつもなら絶対させてくれないから。  真っ白で。  滑らかな身体。  淡い色の乳首。  思わず、いつもそうしたいと思っている乳首を舐めてしまう。  あの人は目覚めないけれど、小さく喘いだ。    小さく開いた唇に思わずむしゃぶりついた。   それでも、優しくキスをする。  熱い口の中にあるあの人の舌が甘くて、舌を絡め、噛み、そっと吸った。    身体をなでまわす手をとめられない。   俺より一回り小さい身体は抱きしめるのにちょうどいい。   服は脱がせてない。  ズボンをずらして下着の中に手をいれて、尻を撫で回してはいても。  「挿れたい・・・」   思わず声が出る。  いいんじゃないか。    身体は回復するし、痛みすら残らないのは知ってる。  俺がそうだから。    記憶が身体をさいなむことはあっても、だ。  記憶は、ね。  強烈な記憶はね、残り続けるんだけどね。  中に出した精液さえ始末しておけば・・・。  あの人は気付かないのでは。  この中で出したい。  思わず指先があの人の穴をなぞっていた。  甘い唇を噛みながら思う。  この人の身体は何もかもが甘い。  白いのどを吸った。  かすかに吐息があの人から漏れて俺は切なくなる。  この人の中に入りたい。      「うっ・・・はぁっ」  俺は声をあげながら腰を上下させていた。  俺は寝ているあの人に結局、少し撫でたり、少し舐めたりキス以上のことが出来なかったのだ。  だって。  俺。  あの人が嫌がることはしたくない。  あの人がいいって言ってくれないのに、あの人を抱けない。  でも。  もう収まりはつかなくて。  仕方ないから俺はあの人の勃起しているそこに自分から跨がって腰を振っていた。    まあ、これ位は許して欲しい。  奥を自分で突く。  思い切り深く腰を下ろせばとどいた。  「ああっ!!」  俺はそこに必死でこすりつける。  よだれが出る。  眠っていてもあの人のは熱い。    激しく腰を使えばあの人が小さく呻いて、俺の中に出す。  それでも、堅さをうしなわないそれを今度はまた違う場所で味わう。  スライドさせ、そこでこすり、浅い部分も楽しむ。  「好きだ」  俺は囁く。  あの人が聞いてなくても。    あんたとセックスできればなんでもいい。  あんたが好きなんだ。    強くこすれば、俺のモノから白い精液が迸る。  でも俺は動くことを止めない。   この人を味わいたい。     本当は俺の腕の中て甘やかしたいけれど。  あんたが納得してくれる形でそうしたい。  いつか、素直に俺に抱かれてくれる?  俺にとことん甘やかされてくれる?  あの人のがはじけた。  俺は震えながらそれを受け入れる。  熱い。  あんただ。  あんただけがほしい。  「愛して、る」  イキながら俺は呻いた。  俺はまた動き出した。  この人が欲しい。  この人の全部がほしい。  今はこの人から搾り取ることしか出来ないけれど。  「ああっ・・・いいっ」  あの人の上で悶えながら、俺はさびしかった。              

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